ドリー夢小説




君の知らない心の中は




本当は誰に言われなくても気付いてほしかったけれど、それは贅沢な願いだと知っているから。

仕方がないからこれで許してあげよう。




君の知らない心の中は




ここ最近ずっと忙しくてまともに取れなかった休養。

それが久々に取れて、昌浩はいま自室で彰子と楽しそうに会話をしている。

そして昌浩達から少し離れたところには物の怪が丸くなって瞳を閉じている。

寝てはいないようだが、昌浩達の会話に加わるつもりもないらしい。

馬に蹴られるのは御免、ということだ。


二人のほのぼのとした会話を聞き流しながら、物の怪は庭から吹いてくる穏やかな風に耳をそよがせた。

本当に、こんなにゆっくりと時が過ぎるのは久しぶりだ。

それを噛み締めるかのように軽く尻尾を動かした物の怪。

その後ろに慣れ親しんだ神気が降り立ったのに気が付いて、物の怪は瞳を開けて口を開いた。


「どうした、勾」

「いや、たいした用事ではないのだがね。・・・昌浩達は楽しそうだな」


勾陳がこの場に降り立ったことさえ気付かない様子で、昌浩と彰子は会話を続けている。

内容は内裏でのこと、夜警でのことなど様々なようだが、どれも彰子は楽しそうに聞いている。

本当に見ていて微笑ましい限りだ。


「彰子とゆっくり話す時間もここ最近はなかったからな」

「お前は話しに加わらなくても良いのか?」

「馬に蹴られるのはごめんだ」


尻尾を一度ぴしりと振って、物の怪は瞳を閉じた。

勾陳がたいした用事ではないということなので、本当に眠るつもりなのかもしれない。


その様子を見た勾陳は、何かを思案するように口元に手を持ってくると、しばらくして口を開いた。



はどうしているんだ?」

「さあ? まだ陰陽書でも読んでるんじゃないか?」


自分の恋人のくせに、随分と放り投げた返答だと、勾陳は思った。

昌浩が彰子と会話をあまり持てなかったの同様、物の怪だってと会話をあまり持てなかったはずなのだが。


「あいつは一度陰陽書を読み出すと邪魔されることを嫌うからな」


勾陳の思考を読みとったのか、物の怪は気のない様子で答える。


実は数刻前に物の怪は様子を見に行ったのだが、その時は陰陽書を読んでいたのだ。

彼女は書を読んでいる時に邪魔をされるのをとても嫌う。

下手に話しかけて気を散らせれば、誰相手でも怒る。

それは物の怪でも例外ではないのだ。


「そうか。だがそれは本当に読みたくて読んでいるのか?」

「・・・何が言いたいんだ?」


勾陳の言う意図が全く読みとれない物の怪は瞳を勾陳に向けて眉を寄せた。

勾陳は物の怪を真っ直ぐ見返す。

その口元にはわずかに笑みが見える。何か物の怪には良くないことを考えていそうな、意地の悪い笑みだ。

それを見た物の怪は更に眉を寄せるのだが、勾陳は気にする様子はない。


「いや、先日が漏らしていた言葉があってな」

「なんだ。早く言え」


物の怪をじらすように言葉を切る勾陳。

いつしか物の怪は体を起こして勾陳と向き合うようにお座りの体制を取っていた。
さすが、のこととなると気になるらしい。


「どうもお前に構ってもらえなくて暇らしくてな。だから暇つぶしに書を読んでいると・・・」


勾陳が言い終わるよりもずっと早くに、物の怪の姿は彼女の目の前から消えていた。

気配を探ってみれば、どうやらの許へと向かったらしい。



「まったく、世話のやける奴らだ」



の部屋のある方をちらりと見て面白そうに微笑むと、勾陳は隠形してその場を離れた。







はその頃、自室で陰陽書を読んでいた。

覚えたことはたくさんある。

でもそれ以上に、覚えていないことや知らないこともたくさんあるのだ。

彼女は陰陽寮に勤めているわけでもないが、それでも陰陽師としての力を向上させるため、日々勉強に励んでいる。

それは大切な人を護るため。そして自分の力を抑え自在に扱えるようにするため。

集中し出すとあまり周りのことが見えなくなる質であるは、物の怪が自室に入ってきたのにも気付かなかった。

風を入れるために妻戸を少し開けていて、その隙間から入ってきたせいもあるのかもしれないが。
だが、にしてはめずらしことだった。





「っ?! 紅蓮、いきなり声を掛けるな。驚くだろう」


本当に驚いた様子で文句を言うだが、物の怪は何処が神妙な面もちでを見上げている。

その視線に気付いたは、いろいろと文句を言おうと思ったことも機嫌を損ねたことも忘れて、軽く首を傾げた。


「どうかしたのか?」


不思議そうに訊ねてくるを真っ直ぐに見上げて、物の怪は少しの沈黙の後に口を開いた。


「お前、俺に構ってもらえなくて寂しかったって本当か?」

「・・・は?!」


勾陳から聞いた言葉とは内容がずれている気がするが、物の怪はそんなことは気にしない。

たとえ勾陳がそういう意味で言ってなくても、物の怪はそういう意味で取ったのだ。

言葉など、相手の取り方一つでいくらでも変わる。


物の怪のある意味での爆弾発言を聞いて、は変な声を上げた。

どうやら混乱しているらしく、次の言葉がすぐに出てこない。


「・・・だ、誰がそんなこと言ってた?」

「勾陳だ。お前から聞いたと言っていた」


物の怪の言葉には更に混乱する。



「ちょっとまて、私は勾陳にそのことを漏らした覚えはない」


勾陳に限らず、誰にも。


「・・・漏らしていなくても、その言い回しだと思っていたということだな」

「ち・・・」


違う。と言おうとしたが、がそう言うよりもはやく物の怪は本性に立ち戻るとの腕を引っ張って抱き寄せた。

その行動に驚いて、は言葉も出ない。


「そんなことをが思っているなんて、気付かなかったな」

「だからそんなこと思ってなんていないっ」


きっともう何を言っても遅いのだろうが、は反論するしかなかった。

そんなことを考えていたなど他人に、しかも本人である紅蓮に気付かれるなど、にとっては恥ずかしいことこの上ないのだ。


何とかして紅蓮の腕から逃れようとするだが、逃れようとすればするほど、紅蓮の腕の力は強くなる。

どんなに頑張ってもでは紅蓮の力に到底及ばない。

仕方なく諦めて大人しくなった。その彼女の長い髪を、紅蓮は優しく梳いていく。



「昌浩のところに戻らなくて良いのか?」

「昌浩は彰子と会話しているからな」

「おじい様のところには?」

「晴明のところには行く用事がない」

「じゃあ・・・」

、お前は俺がここにいるのが嫌なのか?」


紅蓮の言葉に、はうっと詰まって沈黙した。

嫌なわけがない。寧ろ嬉しい。

けれど、自分が隠していた気持ちを知られて、しかもこんな体制では恥ずかしくて仕方がないのだ。

だからどうにかしてこの状況を打開したいと考えてのの言葉なのだが、紅蓮はそれを知ってか知らずか話す気配は全くない。


「寂しかったのか?」

「・・・・」

「沈黙は肯定と見なすぞ」

「そんなこと・・・」


ないと言おうと思うのだが、そのたった二言が言葉にならない。

それは紅蓮の問いが真実だからだ。


「すまなかったな」

「別に・・・」


紅蓮の謝罪には素っ気なく答えて口を閉ざした。

悪いなんて思ってはいないし、仕方がないことだってわかっている。

紅蓮は昌浩の傍にいて護ると誓っているのは知っているし、自身もそれを望んでいる。

大切な弟を護ってほしいという願いは、真実だから。

けれど寂しいと時々思ってしまうのも真実なのだ。

しかしそう思ったところで、は紅蓮を責めるつもりはない。


「これからは、暇があればなるべくお前の許に来る」

「そんな無理しなくていいよ」


難しい約束は望まない。

いま紅蓮がくれたその言葉だけで、には充分だから。



「・・・

「なんだ? っ?!!」


紅蓮が自分を呼ぶ声に顔を上げると同時に、唇に温かいものが触れた。

本当に一瞬だけ触れるもので、一瞬何だったかわからなかっただが、紅蓮のそれだったことがわかった途端、彼女の頬は見る見るうちに赤くなってゆく。


「紅蓮っ!!」

「いままで寂しい思いをさせた詫びだ」


にっと至極面白そうに笑う紅蓮に本気で起こったは真っ赤のまま怒鳴りつけた。



それからしばらくの間、紅蓮はに構ってもらえず今度は彼が寂しい思いをしたとかしないとか。





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一万ヒットお礼夢小説です。

相手はアンケ1位だった紅蓮。お相手は私の中では固定の昌浩の姉です。

一応フリーにしているので、お持ち帰りはご自由にどうぞ。

サイトに載せる時だけは作者名とサイト名も一緒に載せて、一言ご報告下さい。

報告はBBSでもメールでも拍手でも構いませんので。

その時にサイトURLも一緒に載せてくれると喜びます。


こんなものでお礼になるのか不安なのですが、どうぞ許してください。

それでは、一万ヒット本当にありがとうございました。


管理人、海月紫苑。



管理人より一言。

あまりにも素敵な紅蓮夢だったため、頂いてきてしまいましたvv
何と言いますのか……不器用で、でも優しい――。
そんな紅蓮が紅蓮らしくて、惚れました。(笑)
私も紫苑様を見習って頑張らなければ!!

最後に。
10000Hit、本当におめでとうございますvv
これからも頑張ってください。
そして今後ともどうぞよろしくお願いいたします。