ドリー夢小説




仕事の終わり




仕事の終わり




絶え間なく降っていた雪もいつしか消え、紫州にも春の気配が近くまで来ていた。

そして、この部署にもその春の訪れを感じさせるものがやってきていた。


・・・『春の大決算』である。


国試を経て新しく官吏になる者達が朝廷に入ってくる前に全ての決算を済ませ新しい気持ちで、彼らと一緒に仕事をしよう・・・という目的なのだが年中忙しいこの戸部では、そんな理由はただの飾りでしかなく、仕事の目的は年末に疎かになっていたところの確認と冬の決算報告を作る時期である。

今年は国試が行われなかったものの、茶州の奇病事件やら、水面下で縹家の動きがあったやらで朝廷は大きく揺れた。

特に茶州の奇病事件に関しては異例のことが多く戸部としても、禄の振り分け、数多くの臨時出費、その他で頭を悩ませていた。

更に全商連も関わっているということで、いつもと違う金の巡りに対処がしきれない。

日々の仕事もあるのでどんどんそれは後回しになっていったがこの時期にしてやはりほっておくわけにはいかなくなった。


「・・・くそっ・・・・悠舜め・・・帰ってきたらこき使ってやる・・・」


柚梨は上司の愚痴を聞いて苦笑した。


「しょうがないですよ。悪いことをしたのではありませんし。
皆さん無事でよかったじゃないですか」

「それとこれとは話が別だ。
思いきり国庫に穴あけやがって・・・」


今まで自分がどれだけ苦労して国の景気回復に努めたか。その中でも新事業にまわそうと思ってためておいたお金を・・・あんなに・・・あっさりと・・・。

鳳珠は今から戻ってくる友人に向けて愚痴を考えていた。


「少し減ったくらいじゃないですか。
すぐにお金はたまりますよ」

「しかし・・・。
今まで考えてきた計画がまた一から・・・・っ」

「まぁまぁ、貴方らしくもない。
口を動かすよりも手を動かしたらいかがですか?」


柚梨の指摘に鳳珠は口をつむぐ。

最近ほぼ徹夜で書類と睨めっこをしていたため、集中力がなくなってきているのであろう。

自分でも分かるほどに仕事の効率が下がっている。


「・・・少し疲れているのかもな」

「そうですねぇ、最近ちゃんと寝てないですから・・・」


柚梨もあまり鳳珠のことは言えない状態にあるので何も言わなかった。

少しでも休められればいいがたまる書類の山に、そうも言っていられなかった。

こんな時期に限って黎深は引きこもり期間に入っているらしく、戸部にも顔を見せない。

・・・大いにいいことだが。

だが、実際吏部の仕事もはかどらず、裏から人員をもらうことも出来ない。



「?ですっ。
黄尚書、景侍郎。この書簡と書類の決裁お願いします」


少し休憩しようと思っていた二人だが彼女の持ってきた書類に絶句した。

尚書室に新しい山が一つ増えたのである。

お茶を飲むための机も長椅子も全て書類で埋め尽くされた。


「・・・なんか・・・吏部尚書室とはれますね」


彼女の一言がこの室の状態を如実に表していた。


「・・・はぁ・・・休憩どころではないな」

「休憩なさるのですかっ!?
ではお茶とお菓子をお持ちいたしますっっ」


上司の意外な一言には笑顔で申し出た。

この人から休憩という言葉が出てくるなんて珍しい。


「・・・いや・・・別に今は・・・」

「何を言っているのですか。休憩も大事ですよ!
他の皆さんにも配って参りますので景侍郎もお休みになってください」

「・・・?官吏・・・」

「お二人が倒れられたらそれこそ戸部は破滅状態になります。
貴方方が柱で要なのです。
絶対に体調管理と少しの休憩を忘れずに!
少しでも異変を感じたら一刻でもいいですから寝てくださいね!」


そういうにも疲労の色はかなり見えてきていた。

小さな体にそぐわず、くるくる動くその姿にどこからそのような力が出るのだろうかと不思議になる。

すぐにお茶と菓子が出された。

どちらともかなり糖が含まれていて甘い。


「・・・好みがあると思いますが、我慢してくださいませ。
糖分がないと頭働きませんから」

「いえ、とても美味しいですよ」

「・・・あぁ、不味くはない」


二人の感想にはにこりと頷いた。

そして戸部官吏達にも茶と菓子を出しに行った。


その後姿をみて柚梨はほぅと一息ついた。


「・・・本当くんがきてくれて助かりますね。
去年の今頃の私達だったら多分、破滅の道を進んでいたのではないでしょうか・・・」

「・・・そうかもな」


鳳珠は甘露茶に口をつけながらそう呟いた。




一日一日と日は過ぎて行き、忙しさも峠を越えた。

しかし、それと引き換えに徐々に倒れていく官吏が続出した。

いくら精鋭部隊だとはいえ、やはり人間として限度がある。


何とか吏部に頼み込んで助っ人を数人もらってきた。


「やー、まさか貴方が来てくれるとは・・・。
嬉しいわ、珀明」

「僕はあまり嬉しくはないがな・・・」


戸部に入った途端に尚書室に連れ込まれ、山になった書類の運搬を頼まれた珀明。

まさか、ここに第二の魔の部屋があるとは彼も思っていなかったらしい。

黄尚書の仮面姿も頭から離れず、最初の一刻は精神的に参っていた。

今はと机案を並べ決算の計算の最中だ。

勿論、周囲には壁のごとく書簡が書類が立ち並んでいる。


「どうだった?黄尚書は・・・」


珀明は周囲を見回してから、声を潜めて言った。


「・・・悪くはない・・・悪くはないが、よくあの仮面とあの室の元でお前がそのように生き生きとして働いているかが分からん」

「はは・・・っ。仮面も仕事も慣れれば大丈夫よ。室もいつもあんな感じじゃないし・・・。
今は特別よ」


とてもじゃないが、あの仮面の下を想像するだけで働く意欲が沸いてくるなんて言えたもんじゃない。


「・・・そんなものか・・・?」

「そんなものよ、・・・それに・・・」


お疲れ様です、と上から優しい声が掛かった。二人が見上げるとそこには景侍郎の姿があった。


「碧官吏・・・先ほどは、ほう・・・黄尚書の下で働いてくれてありがとうございます。
文句一つ言わず頑張ってくれて助かります」

「・・・いえっ・・・とんでもない。」

「碧官吏が戸部にいるともっと助かるんですけどねぇ。今日一日だけというのが悲しいです。
また機会があればよろしくお願いします。
では、仕事もいいですけどちゃんと休憩もとってくださいね」


柚梨は二人の机案に茶と菓子を置いていった。


「あっ、ありがとうございますっ、景侍郎」


珀明は吏部では絶対ありえない光景に驚きつつ深々と頭を下げた。


「景侍郎・・・私がやりますのに・・・」

「いいんですよ、?官吏も忙しいのですし・・・。
ゆっくり休んで、そしてその山を片付けていってくださいね」

「はいっ」


一時の癒しの時間であった。


「・・・いいかも・・・・戸部・・・・」


珀明は出されたお茶をしみじみと飲みながら呟いた。

『悪鬼巣窟』と言われる吏部では絶対ない光景であった。


「・・・そういえば珀明、吏部尚書はどうしたの?最近お顔見てないんだけど・・・」


は菓子に手をつけながら珀明に尋ねる。珀明の手がぴたりと止まった。そして表情も固まる。

あまり思い出したくないことだったらしい。


「・・・珀明・・・?」

「・・・さっ、さぁ・・・?
吏部侍郎のお話だと体調を崩されたとか言うことだったが・・・」


そのせいで吏部尚書室はさらに未開発の室となっていく。その整理が自分にまわってくることを珀明は思い出した。

最近あまり入っていなかったからすっかり忘れていた。


「・・・・・・」

「何?珀明・・・」

「・・・この修羅場が終わったら吏部へきてくれ」

「・・・・は?」


その言葉が後に現実のものになることを彼女は知らない。




その後フル稼働して最後の追い込みに入った戸部官吏は二日の貫徹を経て、仕事が綺麗に片付いた。

最後の決算の書類に黄尚書が印を押した。


『終わったぁぁぁぁぁ!!!』


床がちゃんと見える戸部署に、紙と書簡が消えた戸部署に、皆歓喜の声を上げた。

屍に生気が戻ってきた瞬間だった。



『戸部バンザーイ!!』

『精鋭部隊バンザーイ!!』 

『睡眠最高ー!!』

『黄尚書これからもずっと付いて行くッス!!』

『俺も!!一生戸部官吏希望!!』

『黄尚書最高ッス!』

『俺愛してます!』

『俺も大好きです!!』


万歳三唱が夜の外朝に響き渡った。

皆徹夜明けの妙なテンションであった。

そしてこれまた、嬉しくもない告白大会が続くのも戸部修羅場明けの見慣れた光景であった。

こう皆で叫んで、軽く修羅場明けの祝いとして調理場から酒を持ってきて酔いつぶれて寝る。というのももう戸部の見慣れた光景であった。

始めはかなり嫌な顔をしていた鳳珠であったが、今はもう慣れ何を言われても無視を決め込んでいる。

ぶっちゃけ、男にいくら好かれようが全く嬉しくない。


いつもの鳳珠の様子をみて、柚梨は官吏達に向き直った。


「皆さん、本当お疲れ様でした。
これで春の修羅場時期も終わり、ちゃんと事目に入れます。
今日はゆっくり休んで、明日はいつもの料亭で打ち上げをやりますので皆さんきてくださいね」


丁度明日は休みなのでこういうのもいいだろう。


『景侍郎最高ー!!!』

「・・・別に私は・・・。
お礼なら黄尚書にお願いしますね」


柚梨は苦笑して、尚書室の方を見た。中には表情が分からないが机案についてその光景を眺めている鳳珠がいる。

そして、酒も入りすぐに官吏たちはその場に潰れてしまった。


「本当に、お疲れ様でした。鳳珠」

「・・・あぁ、もう少し仕事は残っているが後日でいいだろう。
柚梨ももう休め。」


柚梨は少し考えてから笑顔で答えた。


「・・・・はい、そうさせていただきます。
私ももう若くはないですからねぇ・・・二日間貫徹は辛いです」

「・・・だろうな・・・」

「鳳珠も早くお休みくださいね。
後日とか言いつつこの後それ片付けるのは無しですよ」

「・・・・分かっている」


少し間のあったのは図星だったのだろうか。柚梨は苦笑して一礼した。


「ではお先に失礼します」

「・・・あぁ」

「お休みなさい、柚梨さん」


寝てしまった官吏達に布団をかけながらは言った。


「はい、お先に失礼しますね。」

「お疲れ様でした」



全ての官吏に布団をかけ終え、その場に転がった酒瓶などを片付けは改めて室を見渡した。

・・・これが外だったら本当に戦の後って感じねぇ。

そう思いながら明かりを消した。戸部尚書室はまだ明かりがついていた。

は息をついて、明かりの元へ進んだ。


「まだ起きていらしたのですか?」

「・・・まぁ・・・あまり眠気がこない」

「・・・それは元気なことで・・・。私もですけど」


は鳳珠の横に積み重なっている書類の山を発見した。


「・・・どうせですし、これ持って行っちゃいますね。
全て決裁済みでしょう?
それと寝れなくても横になっていれば自然と眠れますからいつまでもこんなところにいないで・・・」


はそう言いながら書類を持ち上げた。

鳳珠はカタンと仮面を外した。

やはり疲れがでているのか、顔色はあまりよくなかった。しかしその美貌は失われることがない。


、お茶にしようか」


いきなり鳳珠がいいだした。


「え?でもまだ仕事が・・・」


一度持ってしまったものを放棄するのはあまり気分のいいものではない。

は少し渋った。


「後でも出来るだろう?」

「でも・・・・」

「私にいつも休めと言ってるのは誰だったかな?」


鳳珠の微笑には言葉に詰まった。

その顔に勝てる者などこの世にいるのだろうか。


「・・・・・お茶にしましょう」


お茶でも眠気の覚めるものは避けることにした。

ここには眠気覚ましのものが多いのではあらゆる茶の知識を振り絞って選ぶ。

ふと目線をずらすとの視界に酒瓶が入った。先日飛翔にもらったものであった。

彼の選ぶものであるからそれなりに高級品で美味しいものであろう。


どうせなら酒でもいいかなぁ。手っ取り早く眠くなるし・・・。


は酒瓶を手に取った。銘柄を見ると案の定、高級品である。

彼は確か酒には弱くないはずだ。酔って暴れるってことはないだろう。

・・・まぁ徹夜明けで暴れる体力はないと思うが。


「鳳珠様、お酒とかいかがでしょう」

「・・・それでもいい」

「では、先日頂いたものを・・・」


は鳳珠の前に杯を置き、酒を注ぐ。

匂いからして高級品だと思う。


「・・・あいつ・・・無駄に酒の知識だけはあるな・・・」

「年中朝廷に持ち込んでいるだけありますから・・・。
たまに酒屋さんから連絡着ているみたいですよ」

「・・・阿呆か・・・」


鳳珠は二、三杯飲んでからにも進めた。


「・・・よろしいの・・・ですか?」

「あぁ、一人で飲むのも悪いしな・・・」


滅多に飲めない高級品である。は鳳珠に酌んでもらったものをおそるおそる口をつけた。


「・・・飲みやすいですね。さすが美酒・・・」

「お前の舌、かなり肥えているのだな」

「・・・まぁ・・・事実なんでもいけますけどね。あれば飲みます」



それから少しほんのり酔いが回ってきてお互い饒舌になる。


「・・・しかし・・・いつも修羅場明けに騒がれもあまり気分の良いものではないのだが・・・」


先ほどの告白大会のことであろう。鳳珠は苦々しい顔をした。

はそんな彼をみてくすりと笑う。


「いいじゃないですか。少なくとも中身で好かれているわけですし・・・。
その顔見て更に株が上がるんじゃないですか?」

「馬鹿言え・・・。更に戸部を破滅させる気か、お前は」

「本心ですよ
・・・ふふっ、私も一生鳳珠様についていくつもりですよ〜?
大好きです、凄く尊敬しています」


笑顔で言われ、鳳珠の手が一瞬止まった。

酔いがすっと醒めて、先ほどの柚梨の行動が脳裏に浮かぶ。

いつもなら休め、とねばる彼が、さっさと引き下がっていったのには少しの違和感があったのだが・・・


「・・・こういうことか・・・」


鳳珠は額を押さえて大きなため息をついた。


「どうなさいました、鳳珠様?」

「いや・・・」


鳳珠は苦笑しながら立ち上がった。

もう一杯酒を飲むと、酔いと同時に眠気が襲ってくる。


「・・・・私もについてきてもらうと助かる。
・・・仕事以外でもな」

「・・・え・・・・?」


耳元で囁かれ、次はが固まる番であった。すっと酔いが引いていった。

顔を上げると笑顔の彼がいて、とっさの言葉が出ない。


「・・・先に休ませてもらう。
酒は好きなだけ飲んでいいぞ」

「・・・え、あー・・・・はい・・・・・」


パタン、と戸が閉まり、取り残されたは杯を手に呆然とするしかなかった。

今のは・・・今のは何?

酒の席での上の冗談?それとも・・・・いやいや・・・。


二日もの貫徹をした身でありながら、鳳珠の言葉に全く眠気が来てくれず、結局朝日を見るまで休めなかったであった。






FIN






ーあとがきー

サイトの方も見事3周年を迎えることが出来ました。皆様のおかげです。ありがとうございました!
この小説はフリー配布となります。コピペでお持ち帰りくださいませ。
その際に連絡なぞしてくだされば管理人物凄く喜びます。

ちなみに最初にちょっと出てきた縹家事件は本編の伏線となります。・・・ネタはあるので書ければいいですね。(苦笑)
結局誰を出そうか迷った挙句珀明に収まりました。(そしてさりげなく国試組4人の名前が出てきているのは私の愛)彼らの今後の活躍にも期待です。

・・・あまり進歩のない文になりましたが、今後ともこのサイトを見守ってくだされば光栄です。


+COLOR+管理人 月城チアキ





ちなみにこの作品、本栖 朔菜様が私の卒業祝いに下さったイラストからネタが来たものです。
素敵絵をくださって本当ありがとうございました。かなり萌えました。というか最高です。
そんな元ネタの素敵絵はコチラ!!(注:イラストの方はお持ち帰りにならないようにお願いします)





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管理人から一言。

サイト3周年、誠におめでとうございますvv
3年、素晴らしい響きです。(笑)

フリーということでちゃっかりと頂いてきてしまいました。
あぁ、やはり鳳珠様はいいですねvv(何を今さら)
柚梨さんの行動には思わず拍手!!さすがです!!
いいな〜、私も鳳珠様とお茶したいです。(本音)

素敵な作品、ありがとうございましたvv
これからもよろしくお願いいたします。


イラスト見ました〜!!
可愛くて惚れます!!(強調)

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