ドリーム小説






風薫る日に


陰陽寮での仕事を終えた昌浩は、相棒の物の怪こと愛称もっくんを肩に乗せて走っていた。
いつもより早く仕事が終わったため、待っていてくれている彰子のために少しでも早く邸に帰ろう、と全力疾走中であった。
おかげで肩に乗っていたもっくんは、何度落ちそうになったかわからない。その度に怒り声を上げているのだが、きれいさっぱりと流されてしまっていた。
そんな物の怪の声を耳にしながら、立ち止まることなく邸に向かっていた。










      風薫る日に










彰子は与えられた私室で、女房のと談笑していた。幼い頃より一緒に育ったため、女房というより姉と言ったほうがいい。
彰子より一つ、二つの年上だ。年相応の落ち着いた雰囲気を持っている。
話をしていれば、ふいに部屋の外から誰かがこちらに向かってくる音が聞こえてきた。何かあったのであろうか、と顔を見合わせて、お互いに首を傾げていれば御簾が勢いよく上がった。
ふわりと上がった御簾のほうを見れば、見知った人物が荒く呼吸しながら立っていた。

「昌浩!?」
「えっ?まぁ、昌浩様!!」

彰子がいち早く昌浩の姿を見て驚いた。わずかに遅れても驚きの声を上げた。
心配になった彰子は立ち上がり、駆け寄った。

「大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。……ただいま、彰子」
「お帰りなさい」

軽く呼吸を整えてから笑みを浮かべて答えた。答えを聞いて安心したのか、彰子も笑みを浮かべて答えた。
辺りにふわりと甘い雰囲気が漂い始めていた。
二人の初々しい様子は、つい先日婚儀を挙げたばかりの夫婦のようだ。
すっかり二人の世界に入ってしまい、居心地の悪くなったもっくんはそっ、と肩から飛び降りた。
音もなく綺麗に着地して、のもとへ向かった。
二人の姿を微笑ましく見守っていたは、傍にきたもっくんに笑みを浮かべた。

「お帰りなさい、もっくん」
「おぅ……」
「随分と早いお帰りでしたね」
「今日はいつもより早く終わったからな」
「そうでしたか」

こちらもどこかのんびりとした雰囲気だ。会話だけを聞いていれば、昌浩たちと変わりはない。
の隣で背を丸めて寝る体勢をとった。
それに気づいたはもっくんと昌浩たちを見比べると、そっ、ともっくんを抱き上げた。

「うぉ!!、いったい何を……」

予告もなく抱きかかえられて怒り声を上げようとしたが、にっこりと笑みを浮かべたを見て悟った。
この行動の示す意味がわかり、何も言えなくなってしまった。
もっくんを抱きかかえてはそっ、と部屋を出た。もちろん二人の世界に入っていた昌浩たちは気づくことはなかった。








部屋から出たともっくんは、庭が見える辺りまで足を進めるとその場に腰を下ろした。
未だに抱きかかえられたままのもっくんは、憮然とした表情でを見上げた。

「なぁ、
「はい」
「あのままあそこにいてもよかったんじゃないのか?」
「あら、馬に蹴られてもよかったのですか?」

悪戯っぽい笑みを浮かべてそう答えれば、返ってきたのは沈黙と眉が寄せられた表情であった。
馬に蹴られることを思えば、今ここにいるほうがよほどいい。ただ、後で昌浩をからかえないのは残念である。
納得したもっくんは軽くしっぽを一振り、答えた。
しっぽが揺れたことを視界に止めたは微笑を浮かべ、もっくんを抱きしめた。
そろそろ放して欲しいと思っていたもっくんはおずおずと口を開いた。

「ところでよ。いつになったらオレを放してくれるんだ?」
「えっ?……もう少しこのままではいけませんか?
昌浩様からもっくんは抱き心地抜群だからと聞いておりましたから……」
「…………」

控えめにお願いするの顔を見たら無下にするわけにもいかず……。無責任な発言をした昌浩に対してふつふつと怒りが込み上げてきた。

(昌浩の奴……オレは犬か?後で覚えていろよ!!)

心中で怒り声を上げていた。

「昌浩様の言うとおり、抱き心地抜群ですわね」

どこかうっとりとした表情で己を抱きしめているに、もっくんは言葉が出てこなかった。
その背後に疲れと諦めの色が見える。
抱き心地のよさを満足するまで味わったは、己の膝の上にもっくんをそっ、と降ろした。
思いのほか早く解放されたことにもっくんは拍子抜けした。

「もういいのか?」
「はい、ありがとうございました。また今度させてくださいね?」
「……少しの間だけだぞ?」
「はい――」

またと言われて困ったもっくんであったが、条件付ならば好きにさせてもよいかと判断した。
許しが出たことには嬉しそうに笑みを浮かべた。どうやら気に入ったようだ。
の膝の上で背を丸めようとして、ふと気づいた。

「……オレがここにいたら暑くないか?」
「いいえ、大丈夫ですわ。風が心地よいですから……」
「……そうか」

時折吹く風に心地よさを感じて目を細める。
確かに膝は温かいが、決して熱いというわけではない。むしろ適温といったほうがいいだろう。
答えを聞いたもっくんは再び背を丸めて眠る体勢をとった。
背を撫でられる感触に初めは驚いたが、徐々に心地よいものに変わっていった。

(こういうのも、悪くないな……)

そう心の中で呟くと、ゆっくりと目を閉じた。

「おやすみなさい、もっくん」

目を閉じて眠りについたのを確認した後、ぽつり、と呟いた。

風に乗ってどこからか花の香りが微かにした。





初夏の風が吹く、ある日の出来事――。






















何気に初の紅蓮夢です。
紅蓮……というよりはもっくん夢と言ったほうがいいかもしれません。
どうしてこういった内容になったかと言いますと!!
ただ私がもっくんを抱きしめたかったからです。(笑)
ぬいぐるみとか肌触りが良いものが好きなのですvv
だからもっくんも抱きしめたらさぞ抱き心地がよいだろうな〜と。
そんな願望が出てしまいました。(笑)

少しでも楽しんでいただければ幸いです。
やっぱり本物が欲しいな……。(無理です)

2006.5.31   水原 琳

追記:オフライン専用シリーズのヒロインさんとなります。