ドリーム小説
着地の方法
ある日、異世界へと飛ばされてしまった少女がいた――。
少女はこの日を境に自分の住む世界と、その世界とはまったく異なる世界を自由に行き来できるようになっていた――。
着地の方法
少女――はそれからというもの、こちらとあちらの世界をよく行き来するようになった。
初めはなかなかうまく行き来することができなかったのだが、何回か繰り返しているうちに自分の思ったときに行き来できるようになっていた。
何故こんなことができるのかと疑問に思っていたのだが、後で母に聞いた話によるとそれはどうも体質らしいということだ。
母も祖母も曾祖母も、そのまたもっと前のご先祖様も自由に行き来することができたらしい。これはどうやら母方の一族が昔からそういった力を持っていたことが原因のようなのだ。
一族の血を受け継いだ女子はある一定の年齢になると、異世界へ自由に行けるようになるらしいのだ。
母も祖母から聞いたという話だから確証ないようだが……。
が初めて異世界に渡ったときは驚き怖がったものだが、今では平気で渡っている。慣れというものは怖い。
そればかりか、異世界へ行けることが嬉しくてしかたがないと言うのだ。
本人曰く「折角こんな力があるんだもの、使わないなんてもったいない。違う世界へ行けるなんて、なかなかできるものじゃないわ。行かないなんて損よ!!」ということらしい。
ただ、違う世界に自由に行き来できるこの力にも、一つだけ欠点があった。
それは……。
着地する場所がまったくわからない!?
ということだった。
行くたびに着地する場所が違うのだ。
あるときは池に落ちてしまい、びしょ濡れになったこともある。またあるときには自分が行きたかった場所とはまったく違う場所に落ちてしまい、迷子になってしまったこともあった。
さらには人の上に落ちてきて、その人を潰してしまった……なんてこともあった。
は今日もいつものように異世界へと向かった。
時と時を繋いでいる長いトンネルを抜け、行き出た先は碁盤目状に区画された都。
その名を……平安京――。
その平安京と呼ばれる都の北部に位置するある邸の上空には辿り着いていた。目の前には青く澄んだ空が広がっている。
「へっ?」
が素っ頓狂な声を上げると同時に、そのまま急激に落下し始めた。
「嘘〜〜〜〜〜〜!!また〜〜〜〜〜〜!?」
叫び声を上げながらは落下していく。
は落下の衝撃に耐えるべく、ぎゅっ、と目を閉じた。
一方、が落下しようとしている邸の庭に一人の青年が佇んでいた。
青く透き通る長い髪を首の後ろで一つにまとめ、すらりとした長身の右肩から同じような色合いの長い布をかけている。
閉じられたその瞳は、夜の湖のような深い蒼をしている。
このような姿を持つものが人であるはずがない。
そう、彼は神なのだ。それも人の想いによって生まれた神だ。神の末端に席を置きながら、同族神たちから忌み嫌われている存在……。
それゆえに彼のようなものは神将と呼ばれる。
彼の名を青龍――。
十二神将の一人で、木将だ。
十二神将というのは、六壬式盤に記されている神の人数からきている。
天一、朱雀、六合、勾陳、青龍、天后、太陰、玄武、太裳、白虎、天空、騰蛇の計十二人だ。
もちろん名が違えば、その性格も、特性も違う。
青龍はふと頭上に何かの気配を感じ、眉を寄せた。目を開き、わずかに首を上に向かせる。
見上げた先にあったものは、今にも自分の上に落ちてくるの姿だった。
急いで避けようとした青龍だったが、それは少しばかり遅かったようだ。
「きゃあああああ〜〜〜〜!!」
「…………っ!!」
次の瞬間、叫び声とともにドサッ、と大きな音をたてて、何かと何かがぶつかり合う音がした。ぶつかった衝撃で辺りはわずかに砂が舞っている。
ぎゅっ、と目を閉じていたは、くるはずの痛みがこないことを不思議に思っていた。そっ、と目を開けて体を確認してみるが、どこも怪我をしていないようだ。
首を傾げていると、下のほうから怒気を含んだ声が聞こえてきた。
「おい……」
「えっ?」
「いつまで人の上に乗っているつもりだ?」
「ご、ごめんなさい!!……って青龍!?」
そのときになっては青龍を潰していることに気が付いた。
丁度青龍の背中の上にが座っている状態だ。
呆然としたままなかなか降りる気配のないに、痺れを切らした青龍は静かに怒鳴るような声をかけた。
「、早く降りろ……」
「あっ、ごめん……」
青龍に言われては慌てて降りた。背中に重みがなくなったことを確認してから、青龍は不機嫌に眉を寄せながらゆっくりと立ち上がった。
それをぼけっ、と見つめていたは突然声をかけられてビクッ、と肩を揺らした。
「――」
「は、はい!!あっ……」
ハッ、と我に返り、は慌てて青龍の顔を見て固まった。青龍が腕を組み、鋭い眼差しでを見下ろしている。
青龍の胸辺りまでしか身長がないは必然的に青龍を上目遣いに見上げることになる。
「……どうしてお前はいつも俺の上に落ちてくる?」
「どうしてって言われても……。私だって好きで落ちてるわけじゃ……」
何と答えたらよいのかわからず、だんだん語尾が小さくなる。
「でも落ちてきたのは事実だ」
「うっ……」
青龍にぴしゃり、といわれては言葉に詰まった。
確かに人の上に落ちてくる自分が悪いのはわかっている。わかっているのだが……青龍の言葉にだんだん苛立ってきた。
ついに我慢できなくなったは喚いた。
「……だったら、さっさと避けるか何とかすればよかったでしょ?」
「何?」
わずかに青龍がぴくり、と眉を顰めたことに気づかずにさらに喚く。
「神将なんだからそれぐらい何とかしなさいよ!!」
「そこまで言うのなら、次からはそうしてやる……」
「えっ?……青龍?」
わずかに口元に笑みを浮かべて青龍がぽつり、と呟いた。
一気に捲くし立てていたはぽつり、と呟いた青龍が何を言ったのかまったく聞き取れなかった。
再度尋ねようとしたが、邸のほうからバタバタと誰かが走ってくる音がしてそちらのほうに目線を向けた。
こちらに近づいてくる者の気配を察した青龍は、わずかに眉を顰めるとそのままふっ、とどこかに姿を消してしまった。が青龍のほうに目線を戻したときは既に遅く、姿を消してしまった後だった。
青龍が消えた場所を睨みつけていると後ろからよく知った声が聞こえてきた。
「あっ!!青龍――!!もう!!」
「――!!」
「昌浩!!もっくん!!」
振り返った先にいたのは、狩衣に身を包んだ少年と白い大きな猫のような生き物の姿だった。
二人(?)はの傍までくると心配そうに尋ねた。
「すごい音だったけど、大丈夫?」
「怪我はないか?」
「大丈夫。怪我もしてないよ」
両手を広げて怪我をしていないことをアピールしてみる。
「そっか、ならよかった」
「怪我もないみたいだし、中へ入ろうぜ」
「あっ、うん……」
三人はとりあえず、昌浩の部屋へと向かった。
昌浩の部屋に移動した三人は、先ほどが落下してきたときのことを話していた。
「それにしても、今回もハデに落ちたな〜〜」
「うん、ハデに落ちてたよね」
「二人とも……」
どこか楽しんでいるかのような二人の言葉には泣きたい気持ちになった。落ち込むにもっくんがさらに追い討ちをかけた。
「でも事実だろ?」
「それはそうだけど〜〜」
「でも青龍がに潰されるのって、最近多いよね?」
「ん?そういや〜そうだな。何でだ?」
「えっ?何でって言われても……」
急に尋ねられたは困ってしまった。どうして青龍の上に落下してくるのかと言われても、まったく原因がわからない。
行き先は自身が決めていても、着地する場所までは決めているわけではない。むしろまったく予想できないのだ。
答えに詰まってしまったを見て、二人が慌てて話題を変えた。
「でもさ、そのおかげで……っていうのも変だけどさ。
俺が潰されることなくなったんだよね」
「そうだな。前は雑鬼たちに加えてにまで潰されてたからな〜〜」
実に楽しそうにもっくんはほけほけと笑っていた。
あまりに楽しそうにほけほけと笑うもっくんに、昌浩はむっ、と不機嫌に顔を顰めた。多少ムカついた昌浩はここぞとばかりに反撃を開始した。
「そう言うもっくんだって、潰されてただろ!!」
「何を言うか!!あれはお前がいけないんだぞ?晴明の孫!!」
「孫言うな!!俺が何したって言うんだよ!!」
「お前が避けようとしたオレのしっぽを引っ張ったから、オレまで一緒に潰されてたんだよ!!」
「あれはもっくんが一人で逃げるから悪いんだろ!!」
「もっくん言うな!!それにオレまで巻き込むな!!」
いつもの如く始まった二人の言い合いにはそっ、とため息を吐いた。
この昌浩という少年、その氏を「安倍」と言う。この安倍家と言うのは代々陰陽師を生業としている。
安倍家の一員である昌浩も当然陰陽師だ。相棒である物の怪こと愛称・もっくんに言わせれば、まだまだ半人前なのだそうだが……。
昌浩には非常に有名な祖父がいる。それは時を越えてやってきたもよく知っている人物だ。
その人物の名を安倍晴明――。
平安時代に活躍したあの稀代の大陰陽師、安倍晴明だ。
とても有名な大陰陽師の孫である昌浩はそれゆえにこう呼ばれることが多い。
晴明の孫――。
と。
本人にしてみればこう呼ばれるのは、非常に不愉快なことこの上ない。
が初めてこちらに来たときに着いた場所が、あの大陰陽師・安倍晴明の住むこの邸だったのだ。
それ以来、はこうしてよく遊びに来ているのだ。
一通り言い争いが終わったのか、二人は肩で息をしていた。やっと呼吸を整えたもっくんは、ふとあることを思い出し尋ねた。
「そういや〜〜、」
「なぁに?もっくん」
「今日はどうしてこっちに来たんだ?」
「あっ!!そう言えば……今日も来る日じゃなかったよね?」
もっくんの問いに昌浩が思い出したような声を上げた。
今度はいつ来るのか、ということをはいつも伝えてから帰って行く。確か今日はこちらに来る日ではなかったはずだ。
突然やって来るということは何かあったということなのだろうか……。
はもっくんに尋ねられて本来の目的をハッ、と思い出した。軽くパン、と手を合わせると忘れるところだった、と呟いた。
「そう、そうだった。肝心なことを忘れるところだった!!」
「おい……」
「……」
のマイペースさに二人はガクッ、と肩を落とした。しかしそれも今に始まったことではないので、諦めるしかない。
そんな二人を気にする様子もなく、今日ここに来た理由を話し始めた。
「今日ここに来たのはね、しばらくこっちに来れそうにないってことを伝えるために来たの」
「えっ?来れないって、どうして……」
「もうすぐテストなのよ」
「「てすと?」」
二人は聞きなれない言葉に首を傾げた。
不思議そうな顔で見つめてくる二人を見て、はこの時代には『テスト』と言う言葉はないことに気づいた。
「あぁ『テスト』って言うのは、こっちで言うと試験?っていうことになるかな」
「「試験?」」
「そう。
その試験があるから、しばらくこっちに来るのは控えなさいってお母さんがうるさく言うものだから……」
「そうなんだ……」
「何かよくわからんが、も大変なんだな」
二人はいまいちわかっていないのだが、何だか大変なんだな、ということだけは理解できた。その証拠に二人ともほけっ、とを見つめている。
その様子にわずかに苦笑いを浮かべ、伝えることも伝え終えたはすくっ、と立ち上がった。
「そう言うわけだから、今日はもう帰るね」
「あっ、!!」
「またね〜〜!!」
昌浩の制止の声を無視して部屋を飛び出して行った。
慌てて後を追った二人だったが、目の前が一瞬光に呑まれたかと思うと、既にそこにはの姿はなかった。
「あ〜あ、行っちまったな」
「うん……」
「今度はいったいいつ来るつもりなんだ?は」
「う〜ん、たぶん『テスト』っていうのが終わってからじゃないかな?」
「あ〜〜、そうかもな……」
呑気に呟いたもっくんは、首の後ろを後ろ足で器用にわしゃわしゃと掻いた。
それから数日後――。
テストを無事に終えたは前回と同じように安倍邸の上空に辿り着いていた。
そっ、と見下ろして見れば、丁度真下に青龍の姿が見える。青龍の姿を認めて内心焦った。
(またなの〜〜!!絶対にまた青龍に怒られる〜〜〜〜!!)
泣きたい心境とは裏腹に落下するスピードは遅くなるどころか、逆に速くなっていく。
しかしそれは自分ではどうすることもできないため、覚悟を決めてぎゅっ、と目を閉じた。
(んっ?)
もうそろそろ何か衝撃があってもいいはずなのに、それが一向にこない。それともまだ落下している途中なのだろうか。
それにしても何かがいつも違う感じがする。どんな風に違うのだと聞かれても困るのだが、やはり何かが違うのだ。いったいどういうことなのだろうか。
それにこの気配は……。
「おい……」
頭を混乱させていると、頭上からよく知っている声が聞こえてきた。その声に思わず固まった。
この気配とこの声を持つものをは一人しか知らない。
パチッ、と目を開き、勢いよく顔を上に向けて声をかけてきた人物の顔を見た。
視界に入ってきたのは思っていた通り青龍の顔だった。しかも何故かいつもより目線が近い。
(何で?何でこんなに顔が近いの〜〜〜〜〜〜!!)
嬉しさと恥ずかしさがごちゃ混ぜになって、どうしたらいいのか戸惑っていた。
とりあえず落ち着いて、自分の置かれた状況を考えてみようと試みた。が、それも次の瞬間、脆くも崩れ去った。
よく見てみれば、自分は横抱き(所謂お姫様抱っこの状態)になっている。
そのことを理解した途端、顔を真っ赤に染めて抗議の声を上げた。
「な、何で?」
「?」
「何で……何で青龍に抱きかかえられてるのよ〜〜〜〜!!」
「助けたからに決まっているだろう」
が当然のことを抗議するのに対して、青龍は何を言っているんだ?とばかりの顔で答えた。
助けたもらったことには何も文句は言えないは慌てて話題を変えた。
「……と、ともかく早く降ろして!!」
「断る」
「なっ!?青龍――!!」
「俺の上に落ちてくるほうが悪い」
身を捩って何とか青龍の腕から逃れようとしていただったが、当然のことのように言い切る青龍にそのまま体を固まらせてしまった。
まさに開いた口が塞がらないというのはこういうことを言うのだろう。
ハッ、と我に返ったは慌てて反撃に出た。
「それって、どういう理屈よ!!ねっ、ちょっと聞いてるの?青龍!!」
「……少しは大人しくできないのか?お前は……。
それに前にも言っただろう?宵藍だ」
「……っ!!」
顔をさらに赤く染めて喚いているの姿を見てそっ、とため息を吐いた。青龍はそのまま耳に口寄せて囁いた。
さすがのもこれには大人しく口を閉じるより他はなかった。
(いつか必ず着地する力を身につけてみせるんだから――!!)
そう新たに決意を固めただった――。

この作品は前サイトで2000Hitを踏んでくださった織様リクエストの青龍夢です。
リクエストで甘々とありましたが、これって甘いですか?(聞くなよ)
私には判断できません。自分が何を書いているのかすらわかっていないので。(苦笑)
青龍が相手だというのに、昌浩ともっくんが少々出張りましたね。
すみません!!思いっきり私の趣味です!!(汗)
ヒロイン設定はトリップものでというリクエストでしたので、現代の女子高生させていただきました。
いかがでしたでしょうか?(ちょっと不安……)
今回初挑戦の青龍夢でしたが、気に入っていただければ幸いです。
駄作ながら織様にお贈りいたします。
2005.2.22 水原 琳