ドリーム小説






ぬくもり


夜の帳が完全に降りた頃、六合はいつものように式部卿宮の邸を訪れた。
誰にも咎められることもなく、まっすぐに姫の部屋へ向かった。
笑顔で自分を迎えてくれる姫の姿が目に浮かび、六合は自然と頬が緩むのを感じた。
姫の部屋の前についた六合は、音もなく御簾をくぐりぬけた。が、そこに 自分を迎えてくれる姫の姿はなかった。そればかりでなく、部屋は暗闇に閉ざされ人の気配がない。
六合は驚くと同時に焦った。もしや姫の身に何かあったのではないか……。
心配になった六合はすぐに姫の姿を探しに部屋を出た。










      ぬくもり










六合が姫の姿を探していれば、ふいに人の気配を感じた。その気配を追えば庭に出た。
庭の池のほとりに姫の後ろ姿を見つけて、六合はほっ、と安堵した。どうやら何かあったわけではなく、姫自らの意思でここにきていたようだ。
姫は顔を上げて何かを熱心に見ていた。熱心に見ているためか、六合が近くにいることには気づいていないようだ。
そのことに寂しさを覚えるものの、姫の顔があまりにも楽しそうで声をかけることを躊躇われた。
六合はしばらく何かに目を奪われている姫を見ていることにした。
静かに姫の様子を見ていた六合であったが、これ以上ここにいては姫の体に負担がかかってしまう……そう思い声をかけた。

――」
「……まぁ、彩W――」

その声に姫はゆっくりと六合にほうに顔を向けた。少し離れた場所に六合の姿を見つけた。
声をかけられて初めて六合が近くにいたことに気づいた姫は軽く驚いてから嬉しそうに笑みを浮かべた。
姫の目が自分に向けられたことに安堵すると同時に六合は嬉しくなった。
ゆっくりと姫の傍まできた六合はふっ、と呆れたような安堵したような笑みを浮かべた。

「何かあったのかと心配した……」
「心配をかけてしまってごめんなさい……」

姫はわずかに顔を俯かせた。六合に心配をかけてしまったことに心が痛んだ。

「無事ならばそれでいい……」
「はい……」

六合の優しさを含んだ声音、姫はほっ、と安堵した。
姫のことが心配だったのは確かだが、姫を悲しませるのは六合の本位ではないのだ。
しかし何故姫がこのような時刻、ここにいるのか六合にはまったくわからずにいた。

――」
「はい」
「何故ここに?」
「星が……あまりにも綺麗でしたので……」

そう言うと姫は再び顔を空へ向けた。姫の目線の先を追う様に、六合も空を見上げた。
空を見上げれば夜空一面に星たちが競い合うように光り輝いている。雲一つない、一面の星空だ。

「ね?綺麗でしょう?」
「あぁ――」

にっこり、と嬉しそうに笑みを浮かべる姫の姿に、六合は自然と笑みを浮かべた。
確かに星は綺麗なのだが、それ以上に六合は姫のことが心配であった。

、そろそろ部屋に……」
「もう少しだけ……」
「また寝込んだらどうする……」
「少しだけ……」

控えめに自分を見上げてくる姫の姿に、六合は一つため息を吐いた。
こうなってしまっては自分が何を言っても聞き入れてはもらえない。姫のことは心配であるが、滅多に願いを口にしない姫の頼みを断れるはずもなく……六合は渋々承諾するしかなかった。

「……少しだけだ」
「……ありがとうございます」

半分諦めかけていた姫であったが、六合の言葉を聞いて嬉しそうに笑みを浮かべた。そして再び空を見上げた。
少しだけ、と言ったものの、このままでは姫の体にはよくないことばかりだ。六合は静かにため息を吐くと、姫の背後に回った。
そっ、と自分の腕の中に姫を抱き寄せて、闇色の長布で自分ごと包み込んだ。

「……っ!?彩W?」
……いつからここにいた?」

六合は抱きしめた姫の体が思っていた以上に冷え切っていたことに驚いた。

「えっ?いつ……からだったでしょう?気づいたら彩Wが近くにきてましたから……」
「…………」

姫の答えに六合は深くため息を吐いた。この姫はいつもこうだ。
一方姫はため息を吐かれた意味がわからずに首を傾げて六合を見上げた。

「……彩W?」
「……いや、何でもない」
「……そうですか?」

気になるものの、六合が何でもないというからにはたいした問題ではないだろうと姫は判断した。
これ以上姫の体が冷えることがないよう、六合は姫を抱きしめる腕に少し力を入れた。

「温かい――」

わずかに力を込められて驚いたものの、冷えた体にゆっくりと広がる温かさに姫は笑みを浮かべた。

(もう少しだけ……このままでいさせてくださいね?彩W)

自分を抱きしめている力強い腕に、そっと手を重ねた。


空には輝く星が一面に広がっていた――。













お久しぶりの更新が時期はずれなものですみません。(汗)
これは某所に年末に書いたものをそのまま持ってきただけになります。
相変らずな二人をお楽しみいただければと思います。

こう……雰囲気的には老夫婦な二人です。(笑)
いつの間にかそうなってました。
二人の性格のせいもあるんでしょうね。(苦笑)


2008.4.25   水原 琳