ドリーム小説
大切なのは……
清浄な空気に包まれる貴船山――。
この貴船にある神社を『貴船神社』と言う。
貴船の更に奥へ進んだ場所に本宮があり、ここに祀られている祭神の名を高オカミノ神。
日本でも五指に入る、雨を司る龍神でもある。
大切なのは……
貴船の社殿の左側にある船形岩。その上空に神気がふいに出現する。
そのまま降りてくると船形岩に着地する寸前、それは人身へと姿を変えてふわりと足を着かせた。
身に纏う甚大な神気を抑えることもなく、腰を下ろしてもうすぐ訪れるであろう者を待つ。
やがて……かすかな足音と共に小さな人影がこちらにやってくるのが見えた。
足を組んで腰を下ろしていた高?神は口元に笑みを浮かべてその姿を凝視する。徐々に影が大きくなり、その者の姿を完全に捉えた。
お互いの姿を認めて声を上げる。
「……えっ?高淤ちゃん!?」
「何をそんなに驚く?」
巫女装束を見に纏い、腰まである黒髪を肩辺りで緩く結んだという名の少女が軽く目を見張る。
姿どおり、はこの貴船神社の巫女である。
そんなの言動にさして気にしたふうでもなく、どこか楽しそうに笑みを浮かべている。
「だって……いるとは思わなかったんだもん」
「そう拗ねるな。それより……今日もあの藤の花のところに行くのか?」
顔を顰めるの姿に、わずかに苦笑を漏らす。
この貴船の祭神である高オカミノ神を『高淤』と呼ぶことが許されているのは、かの大陰陽師の孫とぐらいだ。
「うん、そうだけど?」
「……そうか。気をつけてな――」
素直に首を傾げて答えるに、何かを言おうとした。が、それを口にすることはなかった。
「うん。じゃあ、行ってくるね?」
「あぁ……」
そう告げて再び歩き出したの姿を見えなくなるまで見送っていた。
完全に見えなくなってから貴船の祭神はぽつり、と呟いた。
「は鈍いからな。あの者たちも救われぬな……」
苦笑を浮かべた後、ふいにどこかに姿を消した――。
大陰陽師・安倍晴明の邸を訪れたは、まず晴明の元に向かい挨拶を済ませた。
いつも安倍家を訪れるとまず、晴明に顔を見せるのが習慣となっていた。
晴明の部屋を出てすぐ、よく知る神気が右側に感じた。そちらに顔を向ければ、見知った神将が腕を組んで柱に凭れかかっていた。
「……青龍。晴明様の傍にいなくてもいいの?」
「天后や玄武たちが傍にいる」
いつもは晴明のすぐ傍に控えているはずの青龍がこんなところにいるのだ、不思議に思わないわけがない。
一方青龍は特に問題はないといった雰囲気で佇んでいる。
は青龍がそう言うからには大丈夫だろう、と判断した。
「そう、それなら大丈夫だね」
ほっ、とした笑みを浮かべるの姿に、青龍が一瞬笑みを浮かべた。
一瞬のことに見落としてしまいそうだが、普段の青龍を知っている者が見たら驚くことだろう。
どことなくのんびりとした雰囲気が漂う中、今度は左側に神気を感じた。同じように顔を向ければ、神将が姿を現した。
「……六合!?」
いつもなら晴明の命で昌浩の護衛の任について邸にいないはずの六合が、今目の前にいるのだ。驚かないわけがない。
「どうしたの?この時間ならまだ昌浩について内裏にいるはずでしょ?」
「その昌浩に彰子姫の様子を見てきて欲しいと頼まれた……」
が素直に疑問を浮かべれば、抑揚のない声で答えが返ってきた。
それを聞いては嬉しそうに笑みを浮かべた。
「そうだったの」
「あぁ……」
普段は無表情な六合もこの時ばかりはかすかに笑みを浮かべた。
それを見ていて面白くないのが、青龍である。いつもの三割り増し、眉間にしわが寄っている。
「おい……」
「……なんだ?」
今気づいたとばかりに目で語っている六合に、青龍は怒気を含んだ声音を上げた。
「どういうつもりだ?」
「どう……とは?」
先ほどとは一変。何やら険悪な雰囲気が漂い始めている。
二人の間に挟まれた状態のは、何故こんなことになっているのかまったくわからないでいた。
「あの子供の傍にいるのが貴様の役目だろう。さっさと戻れ――」
「その昌浩から頼まれたのだが?そういう青龍、お前こそ晴明の傍にいるべきはずではないのか?」
当たり前のようにさらり、と青龍の攻撃をかわして反撃する。
反撃されて青龍はさらに顔を顰めた。
六合も青龍も実はに一目ぼれしており、安倍の邸に訪ねてくるのをいつも楽しみにしているのだ。
だが、自身が鈍いため二人の気持ちにはまったく気づかずにいる。
始まってしまった二人の言い合いに、はどうしたらいいのかわからずにおろおろと二人を交互に見つめるばかりであった。
その時後ろから神気を感じたと同時に声が聞こえてきた。
「、どうした?」
「勾陳!!」
頼もしい友人の登場に、は自然と笑みを浮かべた。
困った顔のの後ろで睨み合っている六合と青龍の姿を見て、そっ、とため息を吐いた。
「またなのか?」
「そうなの、勾陳。どうして二人はいつも喧嘩ばかりするのかな〜〜?」
首を傾げて唸っているを横目に見つつ、勾陳は二人に同情した。
(がこの調子では、あの二人も報われんな……)
いつもと変わらぬ言い合いに、勾陳は呆れるしかなかった。
「勾陳、あの二人の喧嘩を止めさせて」
「……しかたがない」
気に入っているに頼まれては嫌とは言えず、勾陳はしかたがなく二人を止めに動き出した。
「二人とも、その辺にしておけ。が困っているぞ?」
咄嗟に反論しかけた青龍であったが、勾陳の放っている黒い雰囲気にその言葉は呑み込んだ。ちらり、と六合に目線を向けた後、軽く舌打ちするとふっ、とその場から姿を消した。
二人の喧嘩を止められたことに安堵のため息を吐くと、勾陳に礼を述べた。
「……よかった。ありがとう、勾陳」
「いや、かまわないさ……」
微笑を浮かべて答えると、ちらり、と六合に目線を向けた。
(今のところは六合のほうがやや有利といったところか……)
視線に気づいた六合がわずかに眉を顰めたが、勾陳は気にすることなくその場を去って行った。
「行っちゃった……。六合、あんまり青龍と喧嘩しないでね?」
「……努力する」
上目遣いにお願いされて返答に困った六合であったが、ぽつり、と一言だけ答えた。
「、彰子姫に会いに来たのではないのか?」
「あっ!!そうだった」
急いで彰子の元へ行こうとしたであったが、ふいに足を止めて振り返った。
「六合も一緒に行こう?」
「あぁ――」
笑顔を浮かべて伸ばされた手を掴んだ六合は淡く微笑んだ。間近で六合の笑みを見たは頬を赤く染めて俯いてしまった。
体調が悪くなったのか、と心配した六合が顔を覗き込むように尋ねた。
「大丈夫か?」
「……っ!?だ、大丈夫。さぁ、行こう?」
慌てて六合の腕を軽くひっぱりながら彰子のもとへと急いだ。
彰子と話をしている最中、六合の笑みが頭から離れずにいた。
(な、何で?六合の笑顔を見ただけでこんなに心臓がドキドキしてるの〜〜)
おかげで彰子の話はまったく耳に入っていなかった。
が六合への想いを自覚して、晴れて恋人同士になるのは……。
まだもう少し先の話である――。

この作品は前サイトで4444Hitを踏んでくださった皇翡翠様リクエストの六合VS青龍夢です。
リクエストで六合と青龍のどちらかをお相手で、とありましたが、私が決められず……。
こうなったら両方書いてしまえ!!とこのような形となりました。
欲張りに二人が相手だというのに、高淤さんと勾陳姐さんが出張ってしまいました。
す、すみません。私の力不足です。
ヒロインさんは貴船神社の巫女で、高淤さんをちゃん付けで呼べる唯一の人です。(笑)
ちなみに藤の花こと彰子姫とは親友です。
ヒロインさん、やっと六合への想いを自覚するお話にございました。
いかがでしたでしょうか?(ちょっと不安……)
今回初挑戦の六合VS青龍夢でしたが、少しでもお気に召していただければ幸いです。
駄作ながら皇翡翠様にお贈りいたします。
2006.2.28 水原 琳
*高オカミノ神の漢字がうまく表示されませんでしたので、カタカナ表記にて掲載させていただきました。
正式なものがご希望であれば、メールにてお送りさせていただきます。ご一報くださいませ。