ドリーム小説






出会いは突然に?


少女は夜の都を懸命に走っていた。

「誰か……助けて……」 










     出会いは突然に?










稀代の大陰陽師・安倍晴明の末孫である昌浩は、今日も相棒の物の怪こと愛称・もっくんと共に夜警に出ていた。
いつものようにもっくんを肩に乗せて路を歩いていた昌浩だったが、前方に広がる闇の中を何かが動いているのが見えた。よく目を凝らして見れば小さな人影らしきものが見える。
それに気づいた昌浩は立ち止まった。急に立ち止まった昌浩を怪訝に思ったもっくんは声をかけた。

「昌浩、どうした?」
「もっくん……あれって人だよね?」
「あれ?」

疑問に思いながらも昌浩と同じほうに目線を向けた。確かによく見てみれば、小さな人影が見える。

「……確かに人だな。おい、何かこっちに向かってきてないか?」
「えっ?そう言われてみれば……」

二人がのんきに話している間にも人影は止まることなくこちらに向かってきている。だんだんと姿が見えてきた。

「……女の子?」

昌浩はぽつり、と呟いた。
顔がはっきりとわかるところまで少女らしき人影が近づいてきたとき、その後ろからかすかに妖気が漂ってきていることに二人は気づいた。










少女はすっかり暗くなってしまった中を一生懸命に走っていた。その後方には形ははっきりしないがとてつもなく恐ろしいものが追いかけてくることがわかる。少女ただひたすらに逃げていた。

(どうしてこんなことになってしまったの?誰か助けて……)



少女はこの日、主に頼まれてある邸に文を届けに行ったのだ。文を無事に届けて主の待つ邸に戻ろうとしたまではよかったのだが、初めて訪れた邸だったために途中で路に迷ってしまったのだ。
こっちから進むべきか、あっちに進むべきかと考えているうちに辺りはすっかり暗くなってしまっていた。
その直後、背後に嫌な気配を感じた。少女は恐る恐る振り返ると、形を持たない妖怪がいた。少女は即座に走ってその場を逃げ出した。
そして今も逃げ続けているのだ。
ふと前方に少年の姿が見えた。少女は縋る思いで声を上げた。

「……助け……て……」










「「!!」」

少女の声は確かに二人の耳に届いた。

「昌浩!!」
「わかってる!!」

昌浩の声と共にもっくんは紅い炎に包まれて本性である紅蓮に戻った。二人は前方に意識を集中させて妖怪を待ち構えた。
少女が昌浩の手が届く範囲までくると、少女の腕を掴んで自分の背後に匿った。と同時に紅蓮が妖怪に炎の蛇を放った。紅蓮の放った炎の蛇に巻きつかれて妖怪は声にならない叫び声を上げる。そこへすかさず昌浩が術を唱えて、霊力でさらにきつく拘束する。

「ナウマクサンマンダボダナン、ギャランケイシンバリヤハラハタジュチマラヤソワカ!」

妖怪は苦しそうにもがいているが、昌浩の術により完全に動きを封じ込められてしまっている。

「臨める兵闘う者、皆陣列れて前に在り!!」

昌浩はそう唱えるとともに右手の刀印を振り下ろした。放たれた不可視の刃は妖怪に向けて叩きつけられ、妖怪は霧散しながら消えていった。
完全に妖怪が消滅したことを確認した昌浩はほっ、と安堵のため息を吐いた。

「なんだ?たいしたことない奴だったな」
「そうだね」

紅蓮は一言いうと再び炎に包まれてもっくんの姿に戻った。そこで後ろに庇い続けていた少女のことを思い出し、二人は少女のほうに振り返った。

「もう大丈夫だよ。妖怪は俺がちゃんと祓った……から……」

少女を見た昌浩は言葉に詰まってしまった。
目の前にいる幼い少女が目に涙をうっすらと溜めて、恐怖に肩を震わしながら不安げに昌浩を上目遣いに見ているのだ。
少女は震える声で小さく尋ね返した。

「……本当……に?」
「本当だよ」
「よかった……」

昌浩の言葉を聞いた少女はほっ、と安堵の息を吐き、わずかに笑みを浮かべた。その表情に昌浩は一瞬ドキリ、と心臓が高鳴った。わずかに頬が赤く染まる。
(可愛い……)

先程よりは震えが止まったのか少女は顔を上げた。そして目に溜まった涙を拭ってお礼を述べた。

「助けてくださってありがとうございました。えっと……」
「昌浩。安倍昌浩って言うんだ」

お礼を述べたものの、目の前にいる少年の名を聞き忘れていたことに気が付いた。肝心の名を聞かなくては話にならない。
少女が困っていると、昌浩が自ら名乗ってくれた。それを聞いた少女は慌てて言い直した。

「昌浩様、助けてくださって本当にありがとうございました」

ペコリ、と頭を下げて再度お礼の言葉を述べた。恐怖に震えていたことが嘘のように満面の笑みを浮かべていた。
昌浩はその笑顔を見てさらに顔を赤く染めていた。そのため次に出るはずだった言葉が出せず、ただ少女を見つめているだけだった。

「それではこれで失礼させていただきます」

そんなこととは知らずに、少女は一言挨拶をすると足早に去って行った。
昌浩は少女が去って行ったほうを見つめたまま立ち尽くしていた。今まで黙って様子を見ていたもっくんは、ニヤリ、と笑みを浮かべた。

「昌浩、顔が赤いぞ〜〜。惚れたのか〜〜?」
「なっ、もっくん!!」

突然指摘された昌浩は慌てて声を上げた。それを見たもっくんは、それは見るからに楽しそうにまた声を上げた。

「おっ、図星か?晴明の孫」
「孫言うな!!」
「そう照れるな、照れるな。確かに可愛かったもんな〜〜あの子」
「照れてなんかいない――――――っ!!」

夜の都に二人の言い合う声が響いていた――。










ある日、陰陽寮での仕事を終えて帰宅した昌浩は晴明に呼び出された。

「で、じい様いったい何の用ですか?」
「うむ。実は少納言様より依頼があってな、二の姫君の周りで奇怪な現象が起こっているのだそうだ。そこでな昌浩、お前ちょっと行って見てこい」
「そうなのですか。は……はいっ?」

大人しく話を聞いていた昌浩は思わず頷きそうになり声を上げた。その隣で話を聞いていたもっくんは、またか、という顔で二人の様子を見守っていた。

「じ、じい様?」
「何じゃ、昌浩?」
「それってじい様の仕事じゃ……」
「何を言うか。まだまだ未熟で半人前のお前ことを思って言っているのだぞ?それすらもわからぬとは……昌浩や、じい様は悲しいぞ、情けないぞ」
「それは……すみませんねぇ」

初めはおずおず尋ねた昌浩だったが、晴明の言葉にふつふつといつもの如く怒りが込み上げてくるのを必死で押さえていた。晴明はさめざめと泣きまねをしている。毎度のことながら見事である。

(相変わらず不憫だな……)

横目で見ていたもっくんはそう心の中で呟いた。

「というわけじゃ。昌浩、これも修行のうちじゃ、さっさと行ってこい」
「……っ、わかりましたっ!!」
「うぉ!!」

祖父である晴明の言葉には逆らうことができず……。昌浩は怒りに任せてガバッ、と立ち上がると、もっくんの首根っこをガシッ、と掴んで部屋を出て行った。
突然持ち上げられたもっくんはまぬけな声を上げてしまった。文句の一つでも言ってやりたいところだが、今は控えたほうがいいだろう、と判断したもっくんは大人しくそのままの状態でいることにした。










少納言家に着いた昌浩たちは早速二の姫から事情を聞いた。
二の姫の話では『自室から見える庭がいつも同じ時間になる靄がかかったように何も見えなくなってしまう』というのだ。
原因を突き止めるべく庭に下りた昌浩は、庭の片隅に猫のように大きい鼠に似た姿をした雑鬼を発見した。雑鬼は昌浩を見て震えている。

「もっくん、どう見ても悪い奴じゃないよね?」
「あぁ。大方、この邸に張ってある結界のせいで外に出られなくなったからここに隠れていた、っていうところだろう?」
「お前、悪さしないか?」

昌浩は少し考え込んでからその雑鬼に尋ねた。尋ねられた雑鬼はこくこく、と首を縦に振っている。

「もっくん、こいつもこう言っていることだし、外へ出してあげてもいいよね?」
「別にいいだろう?こいつだって別にやりたくてやっていたわけじゃないんだしな」

もっくんの言葉を聞いてから昌浩は、ひょい、と雑鬼を持ち上げた。そのまますたすたと歩いて邸の外へと連れて行った。雑鬼を外に出してやってから、昌浩は術を唱えて結界の補強をした。





二の姫の前に戻ってきた昌浩は、奇怪な現象がおこる原因となっていた妖を祓い、結界を補強しておいたのでもう大丈夫だ、と告げた。

「ありがとうございます」

昌浩の言葉にほっ、としたような声でお礼を述べた。
そこへ丁度、子供特有の足音をさせて二の姫付きの女の童がお茶を運んできた。何気なく少女のほうに目線を向けた昌浩は、ドキリ、と心臓が高鳴った。

(あのとき助けた子に似ている……)

少女は昌浩たちの傍までくると、お茶をゆっくりとした動作で昌浩の前に出した。そして顔を上げた。と同時に昌浩と目が合い、目を大きく見開いた。

「昌浩様?」
「やっぱりあのときの――!!」

昌浩も同様に声を上げて驚いた。隣にいたもっくんも驚いて少女の顔を見つめている。

「あら?じゃあこの前話していた陰陽師というのは昌浩殿のことだったのね、
「えっ?」

二の姫の言葉に昌浩は疑問の声を上げた。二の姫は笑みを浮かべてさらに話を続けた。

「この子を使いに出したまではよかったのだけど、あまりにも帰りが遅いから心配していたのよ。やっと帰ってきたと思ったら、何だか様子が変だったから理由を聞いたの。そうしたら『妖怪に追いかけられていた』と言うから驚きましたのよ?『どうやって逃げてきたの?』聞いたら、この子何って言ったと思います?」
「えっ??」
「ひ、姫様!!」

尋ねられた昌浩はさらに疑問の声を上げていた。二の姫は楽しそうに笑みを浮かべ続けている。その様子を見ていたは二の姫が何を言おうとしているのか、ハッ、と気づいて慌てた。

「この子ったら『自分とそんなに歳の変わらない陰陽師が助けてくれた』って、それは嬉しそうに言ったのですよ?」
「えっ?そ、それは……あ、あの……」
「……」

の制止の声も空しく二の姫は昌浩に話してしまった。それを聞いた昌浩は瞬時に顔を真っ赤にさせて、言葉にならないのか口を鯉のようにパクパク、とさせていた。も頬を赤く染めて顔を俯かせている。

、せっかくですから昌浩殿とここでお話なさったら?」
「いいえ、姫様。ここは姫様のお部屋ですから、のお部屋でお話をさせていただきます。さあ昌浩様、参りましょう」

はこれは幸いとばかりに、スッ、と立ち上がって昌浩を促した。

(これ以上ここにいたら、また姫様にからかわれてしまうわ)

昌浩はどうしたらいいか迷い、と二の姫を見比べていた。二の姫に目線を向けたとき、姫は笑みを浮かべてこくり、と頷いた。
二の姫の了承を得た昌浩は立ち上がった。ペコリ、と一礼してからの後について部屋を出て行った。
二人の後ろ姿を二の姫は微笑ましく見つめていた。










に案内されて部屋に着いた昌浩は、進められるままその場に腰を下ろした。その正面にも腰を下ろす。
腰を下ろしたものの、は何をどこからどう話したらよいのかわからずに困ってしまった。

二人の間に沈黙が流れる――。

は……。あっ、呼び捨てでもよかったかな?」
「えっ?あっ、はい」

しかし沈黙は昌浩によって破られた。唐突に話しかけられたは少し慌てて答えた。

「実はさ、あれからずっと気になってたんだ。夜も遅かったし、無事に帰れたのかなって……。ちゃんと無事に帰れたのか確かめようとも思ったんだけど、名前もどこの家に住んでいるとも聞いてなかったから心配してたんだ」
「えっ?私名前を言いませんでしたか?」
「うん……」
「ごめんなさい。その慌ててたものだから……」

自分の失態に気づいたは恥ずかしそうに謝った。昌浩はほっ、としたような顔で笑みを浮かべていた。

「でもよかったよ。ちゃんと家に帰れたみたいだし」
「本当にあのときはありがとうございました」

はもう一度、助けてもらったときのお礼を述べた。再度お礼を言われた昌浩は照れながら、たいしたことじゃない、と言った。
「それよりも、普段から妖怪とかよく見るの?」
「物心ついたときからずっと見えるの」
「それじゃあ……」

の答えを聞いた昌浩は隣に座っているもっくんに目線を向けた。昌浩が聞こうとしていることがわかったは、即座に答えた。

「そこにいる白い物の怪さんのこと?もちろん見えるわよ?」

これには昌浩だけじゃなくもっくんも驚いた。
もっくんが見えるということはかなり強い霊力の持ち主となる。

「やっぱりもっくんのこと見えるんだ」
「もっくん?」

昌浩の言った『もっくん』という言葉には首を傾げた。可愛らしい仕種をするを見た昌浩は顔をわずかに赤く染めて答えた。

「うん。物の怪だから物の怪のもっくんって、俺は呼んでるんだ」
「そうなんだ。よろしくね、もっくん」

昌浩の言葉をすんなりと納得したは、早速笑顔でもっくんと呼んだ。

「俺は物の怪じゃない!!」

もっくんの叫びは悲しく綺麗に流されてしまった。もっくんを無視したまま二人の会話は進んでいく。
もっくんはため息を一つ吐くとそっ、と部屋の外へ出た。
簀子に腰を下ろしたもっくんは、背後から聞こえてくる二人の楽しそうな笑い声を聞きながら風に吹かれていた。茜色に染められていく庭を見つめながらぽつり、と呟いた。

「平和だな――」










その後――。
安倍邸に帰ってきた昌浩は、式を通じてすべてを見ていた晴明におおいにからかわれていたそうだ――。






















この作品は前サイトで100Hitを踏んでくださった植村様リクエストの昌浩夢です。

昌浩のかっこいいところを見せようと戦闘シーンを入れて見たのですが……あえなく撃沈。
すみません、私が未熟なせいでうまく表現しきれませんでした。(焦)やっぱり戦闘シーンは難しいのです。
さらにいつもの如く晴明様に遊ばれる始末……。それでこそ昌浩だ!!という気もしないでもないのですが……。
ヒロインの設定はおまかせということだったので、今までにないような設定のヒロインにしてみました。いかがでしたか?

初挑戦の昌浩夢でしたが、気に入っていただければ幸いです。
駄作ながら植村様にお贈りいたします。

2004.12.3   水原 琳