ドリーム小説






その調べは……  1


その音色はすべての人々の心に癒しを与える――。

また艶やかな舞はすべての人々の心を掴んで離さない――。



聞く者、見る者……。

すべての人々を魅了してやまない女性がいた――。










      その調べは……   1










仕事を終えた静蘭は帰り道、夕飯の買い物をするため市場に来ていた。
夕刻ということもあって人々が多く行き交い、活気に溢れていた。野菜を売る店、装飾品を売る店、食料品から日用雑貨まで様々だ。
通りを歩きながら何を買おうか考え込んでいると、ふいに聞いたことのある音色が聞こえてきた。
弱弱しい音だが、はっきりと聞こえてくる。その音に引き寄せられるように静蘭は足を進めた。


音を頼りにして足を進めれば、楽器の修理を請け負う店の前に辿りついた。よく耳を澄ませば、音は店の中から聞こえてくる。
店の中を覗けば、この店の店主と思われる男と落ち着いた色合いの衣を纏った女性の姿があった。
女性が手にしている楽器は二胡。かすかに聞こえてきた音はこれのようだ。
店主と話がついたのか、女性はぺこりと頭を下げた。手元の二胡を宝物でも見るような顔で箱に入れた。大切そうに抱えて店の外へと向かって歩き出した。
ゆったりとした足取りで店先に向かえば、誰かが立っているのが見えた。徐々に近づいていくと相手の顔がはっきり見えた。
店先に立つ人物の顔を見て、軽く驚きの声を上げた。

「……静蘭!?」

名を呼ばれて静蘭はやはり……という表情でため息を吐き、女性の名を呼んだ。

……」

名を呼ばれては足早に静蘭に詰め寄った。

「どうしてここに貴方がいるの?」
「どうしてもと言われても……」

何と言うべきか見つからず言葉を濁す。
じっ、と自分を見上げてくるを見ていてふとあることを思いつき、口元に笑みを浮かべた。
大人しく待っていたは、ニヤリ、と黒い笑みを浮かべる静蘭に本能的に危険を感じて一歩後ろに下がった。
しかしが行動を起こしたのは一歩遅かった。
が逃げる気配をさっ、と感じ取った静蘭は、の右手を掴んで己のほうに引き寄せた。もちろん腰に腕を回して逃げられないようにすることも忘れない。

「へっ?……って、何するのよ!!」
「何って……が逃げようとするからだろう?」

背後に黒い雰囲気を漂わせてにっこりと微笑まれて、は顔を引きつらせた。

「に、逃げようなんてしてないわよ!!いいから離して!!」
「断る」
「ちょっと!!」

腕の中から逃れようと身をよじるが、逆に強く抱きこまれて抜け出せない。口で言っても即答で断られる。
これにはも絶句するしかない。
どうしたら目の前の男から逃れることができるのか、考え込んでいたの耳にとんでもない言葉が聞こえてきた。

、君から口付けをしてくれたら離してあげてもかまいませんよ?」
「なっ!?」

恐ろしい提案に、驚いて言葉が出なかった。
このまま何もしなかったら最悪ずっとこの状態だ。いや、むしろより悪い方向へと進むことになる。
そうかと言ってこの条件を易々と受け入れることはできない。
悶々と考え込んでいる腕の中のの様子に、静蘭はどこか楽しげに見つめていた。



(冗談じゃないわよ。そんな条件受け入れられるわけないでしょう!!
でもやらなかったらずっとこのまま……むしろ悪い方向に進む気がする……。
……気がするどころか絶対にそうよ!!)





 は究極の選択を迫られていた――。




















――――――――――――――――――――――――――――――――――

私には珍しく執筆時間約3時間で書き上げました。
初の静蘭SSです。しかも何気に続いてる。(汗)
続いておりますが、それほど続ける予定はないので3〜4話で終了予定です。(あくまでも予定/笑)

実はこの作品。上城琴佳様と綵璃様のお二方に捧げるものの一部だったりします。
いろいろ考えていたら長くなりそうだったので。
すべて書き上げた時点でまとめてお贈りさせていただこうと思ってます。

少しでも楽しんでいただければ幸いです。
最近静蘭熱が急上昇中なので、書ける書ける。(笑)

2006.9.12   水原 琳

――――――――――――――――――――――――――――――――――