ドリーム小説






魅惑の舞姫  後編


『蒼き姫』――。

そう謳われる美しき舞姫。



その舞は花が咲き誇る如く華麗で、蝶が舞う如く優雅なものであった――。









      魅惑の舞姫  後編









予定通りに舞姫の舞が披露された。
特設ステージの上、スッポトライトに照らされた舞姫を目にした兵たちの歓声はすさまじいものであった。

この日のために用意された衣装を身に纏い、大観衆の前に姿を現したはそれに怯むことなく笑顔を浮かべていた。
ふいに静かに音楽が鳴り出すと、すっ、と目を閉じて音に耳を澄ませ、ゆったりと舞い始める。
舞い始めたその姿を目にして、場は一瞬にして静まり返った。


流れる歌に乗せて、時に花が咲き誇る如く華麗に舞い、またある時には蝶が舞う如く優雅に舞う――。


その動きに合わせて身に纏った衣がひらり、と浮かび、髪に挿した髪飾りがシャン、と音を立てて揺れる。


皆その姿に釘付けとなった。
一瞬たりとも目が離せない、と固唾を呑んで見入っていた。それは舞姫本人を呼び寄せたデュランダル議長も例外ではなかった。
特別席には新造艦・ミネルバの艦長であるタリア・グラディス、トップの赤服を纏っているシン・アスカ、レイ・ザ・バレル、ルナマリア・ホークの姿もあった。
もちろん、オーブの代表首長であるカガリとその護衛であるアスラン―現在の名はアレックス―の姿もある。
普段とは違った表情で舞を舞い続ける少女の姿に、デュランダルは人知れず口元に笑みを浮かべていた。


やがて静かに音楽が小さくなり、がその動きをピタリ、と止めた。その反動でふわり、と衣が浮かんでまた元に戻った。
静まり返った会場は一瞬にして大歓声に包まれた。
舞を無事に舞い終えたは先ほどを同じように笑顔を浮かべて、皆に手を振って応えた。ステージには次々と花束が投げられ、それを手にしたは嬉しそうに微笑みさらに大きく手を振っていた。







無事に大役を果たしたは、花束をもってステージ裏に戻ってきていた。
受け取った花束を見て小さく微笑んでいると、ふいに後ろから数人の足音が聞こえてきた。ゆっくりと、振り返ればデュランダル議長の他に誰かがこちらに向かってきている。
わずかに首を傾げながら彼らがこちらに向かってくる様子を見ていた。
の元にいち早く辿り着いたエースパイロットのシン・アスカは顔を赤く染めながら言った。

「あの!!」
「はい……」
「貴女の舞、すごく素敵でした」
「まぁ、ありがとうございます」

舞を褒められて、は嬉しそうに笑みを浮かべて感謝を述べた。
その笑顔を直視したシンはさらに顔を赤くして俯いた。それを不思議に思ったは首を傾げた。

「あの……どうかしました?」
「その……俺と……」
「はい?」
「俺と……付き……」

顔を真っ赤にしながら告白しようとしたシンを遮るように、すっ、との前に姿を表したのはレイ・ザ・バレル。

「初めまして、私はレイ・ザ・バレル。先ほどの舞は見事なものでした」
「ありがとうございます」

いつもの無表情をわずかに笑みの形に変えて、舞を讃える言葉を述べる。先ほどと同じようには笑顔を浮かべて感謝の言葉を口にしていた。
これにはレイも絶句した。

舞を舞っているときの凛とした大人びた表情ではなく、無邪気な笑顔を浮かべている。
これが彼女本来の姿なのであろうか。

シンと同じように直視してしまったレイは、心なしか頬が薄く染まっている。
またしても同じように口を閉ざしてしまった相手を心配して、は声をかけようとした。が、横から飛び込んできた少女に見事に遮られてしまった。

「あの……」
「きゃ〜〜、やっぱり実物のほうが断然可愛いわ!!」
「えっ?」

何やら悲鳴……いや、歓声の声を上げて、同じく赤い軍服を纏った少女がの手を握り締めた。
突然のことについていけないはきょとん、と目を丸くしていた。

「私、ルナマリア・ホーク」
「えっと、ルナマリアさん?」
「やぁだ〜〜、ルナって呼んで」

戸惑いがちに名を口にしたものの、訂正されておずおずと言い直す。それに満足したのかルナマリアが勢いよくに抱きついた。

「えっ?ルナ?」
「やっぱり可愛いわ!!」
「えっ?可愛いって……」
「やぁ〜ね〜。のことに決まってるでしょ?」

悪戯っぽい笑みを浮かべて指摘すれば、その愛らしい顔を赤く染めて顔を俯かせる。それを見たルナマリアはさらにを抱きしめた。

「わ、私!?……っ!!」
「照れてる〜〜。やっぱり可愛い!!」

ルナマリアにされるがままになっている
これを呆然と見ていたシンとレイはそこでハッ、と我に返った。


目の前で繰り広げられている出来事に、二人は心の底から羨ましいと思った。できることなら自分と変わって欲しいと……。
いや、相手は同じ女性だからこそも大人しくしているのだろう。それを考えると二人は悔しくてしかたがなかった。


そんな二人の心情など露知らず、ルナマリアは行動をエスカレートさせていく。

「えっ?ル、ルナ!?」
「へぇ〜〜、って……結構胸あるのね」

何やら感心しながらの胸を触っている。この行動を見た二人は何かがプツン、と切れる音を聞いた。
無言にルナマリアに近づき……。

「ルナ、が嫌がってるだろう?」
「シンの言うとおりだ。いいかげんに離れろ、ルナマリア」

先ほどまでと様子が違う二人に戸惑いながら、から手を離す。

「な、何なのよ。二人して」

しばらく睨み合いが続き、ふいにルナマリアが何かを思いついたのかニヤリ、と笑みを浮かべた。

「あぁ〜、そういうことね。あんたたち私がに抱きついてたから、羨ましかったんでしょう?」
「「…………っ!?」」
「そうよね、あんたたちがやったらただの変態だもんね〜〜」

ズバリ、とその通りなので、二人は絶句した。だが、負けていられないと反撃に出る。

「それいうならルナ、お前だって変態だぞ!!」
「いくら女性同士とはいえ、嫌がっている相手にすることではないぞ」

思いも寄らぬ反撃を受けて、少々たじろいだ。しかしそれも束の間、すぐさま反撃に出た。

「あんたたちよりはマシよ!!」

こうして3人の口論はさらにエスカレートしていった。
呆然と3人の様子を見つめている。3人に気が違う方向に向いたのを見計らうかのように近づいてきた人物がいた。

近づいてきた相手に気づいたは安堵したような笑みを浮かべた。

「議長……」
「やぁ、。先ほどの舞はとても素晴らしかったよ。さすがは『蒼き姫』と謳われる舞姫なだけはある」

いつもの穏やかな笑み……見るものが見れば胡散臭い、何かを企むような笑みを浮かべて、先ほどの舞を称賛する。
舞を依頼された本人からの称賛の言葉に、自然と笑みを浮かべた。

「ありがとうございます。えっ?そんなことはありません。
ただ皆さんに喜んでいただけるように舞っただけです」

初々しいその姿に口元に薄く笑みを浮かべ、さりげなくの腰に腕を回して軽く引き寄せる。

「どうかね、この後食事でも」
「えっ?でも……」
「何、遠慮はいらないよ。私からのささやかなお礼だと思ってくれてかまいわない」
「えっと、じゃあ……」

是非……と続くはずの言葉は己を呼ぶ声でかき消されてしまった。
名を呼ばれ、しかも聞き覚えのある声がしたほうに反射的には振り向いた。

――っ!!」
「カガリ?」

の危機にものすごい勢いでやってきたカガリは二人の間に割り込んだ。デュランダル議長を睨みつけた後、のほうに振り返った。

、大丈夫か?何もされなかったか?」
「カガリ?私は大丈夫よ?それに何かって……」
「いや、大丈夫ならそれでいいんだ」

特に何もされた様子がないことにほっ、と安堵した。一方は何故そんなにカガリが焦っていたのかわからなかった。
いいところで邪魔の入ったデュランダル議長は内心悪態をつくと、目の前に立つカガリに鋭い目線を向けた。

「姫、それでは私が舞姫に何かしたように聞こえますが?」

さも心外だと言わんばかりに言えば、カガリはキッ、とこちらを睨みつけながら言い放った。

「何かだ?今の腰に手を回していたのは誰だ!!」
「舞姫は嫌がってはおりませんでしたが?」
「そういう問題ではない!!それは立派にセクハラだろう!!」

始まってしまった二人の口論に、はまたしてもどうしたらよいものかと立ち尽くしていた。

どうも原因は自分らしいのだが、まったく話が見えないので下手に口は出せない。

困った顔で二人の様子を見ていると、ふいに誰かに肩を叩かれた。誰だろう、とゆっくりと振り向いた先にいた人物を目にして驚いた。
名を呼ぼうとしたが、相手の手によって遮られてしまった。

「アス……」
「しっ、静かに」

耳元で囁かれて、わずかに頬を染めながらコクリ、と首を縦に振る。それを確認してゆっくりと口元から手が外される。
周りを気遣うように声を潜めて問いかけた。

「アスラン、どうして?」
「んっ?が困っているみたいだったからね」

周辺に注意を配っていたアスランは、の問いかけに微笑を浮かべて答えた。
他の女性が見たら即、卒倒するような笑みである。だが、この少女にはまったく通用しない。

「ありがとう。二人とも急に口げんかを始めちゃって……。
私が原因みたいなんだけど、よくわからなくて」
「そうか。でもはわからなくても大丈夫。が悪いわけじゃないから」
「そうなの?」
「あぁ……」

まさか自分を取り合って……などとは思っていないは無邪気な笑みを浮かべていた。
その様子に未だに口論をしている5人に同情の眼差しを向けた。だがそれはそれ、これはこれだ。
アスランとてを狙っている1人なのだ。こんなチャンスは滅多にない。
オーブにいるときはカガリを初め、を溺愛している幼なじみと元婚約者に邪魔されてなかなかと二人っきりになれないのだ。

(こんな絶好のチャンスを逃してなるものか!!)

アスランは行動を移した。

、今日の舞も綺麗だったよ」
「本当!!ありがとう」
「でも疲れただろう?ホテルに戻ってゆっくりしたらどうかな?」
「う〜ん、確かに少し疲れたかも……。でも皆をあのままにしておいてもいいのかな?」

褒められて嬉しそうに答えたであったが、あの5人をあのままにしておいてもよいものなのかと心配になった。

「それなら心配はいらないよ。飽きたら止めるだろう?」
「そうかな〜。う〜ん、でも待ってても終わりそうもないよね?」

首を傾げて尋ねてくる姿に可愛い、と思いつつ、表面上は穏やかな笑みを浮かべて促した。

「あぁ……。だから俺たちは先に戻っていよう」
「うん、そうだね」

未だに口論を続けている5人をその場に残して、二人はホテルへと戻って行った。



一方口論を続けていた5人は、いつの間にかの姿がないことに気づき、揃って声を上げていたとか……。









   おまけ

一部始終を離れた場所から見ていた者がいた。
変装しているが、知っているものが見れば一目でわかってしまうだろう。
近くを通りかかった兵たちは見慣れぬ怪しい者に声をかけようとしたが、辺りを漂う黒いオーラに圧されて何も言えずに去って行った。

「まったく、この僕を置いて行くなんて……」
「本当ですわね。私の可愛いを……」

茶色い髪の少年とふわふわと揺れるピンクの髪の少女はそれぞれ呟いた。
ふと先ほどのの舞を思い出した二人は、うっとりとしながら少女が歩いていった先を見つめていた。

の舞を久しぶりに見れてよかったよね?ラクス」
「えぇ、久しぶりに見られて私も嬉しかったですわ。キラ」

何を隠そうアスランの幼なじみと元婚約者である。
どこからかがアーモリーワンに行くという情報を手にいれたキラは、同じくを溺愛するラクスと共に後を追いかけてきたのだ。

「でもラクス。あれは許せないよね?」
「えぇ、あれは許せませんわね?キラ」
「さりげなくの肩に腕を回して……」
が気づいていないからとよいと思っていらっしゃるのですわ」

二人の周りに、先程よりも黒い……暗黒のオーラが漂う。黒い笑みを浮かべながらぽつり、と呟いた。
「アスランが帰ってくるのが楽しみだね」
「えぇ、楽しみですわね」

そうして二人はその場を後にした。



「……っ!?」

とホテルに向かって歩いていたアスランは、嫌な悪寒を覚えて立ち止まった。
急に立ち止まったアスランを不思議に思ったは顔を覗き込んでくる。

「アスラン?」
「いや、何でもないよ」

笑みを浮かべて否定すると再び二人は歩き出した。

(何だ?この嫌な感じは。まさか!!……いや、それはないはずだ。ない……)

1人とてつもない恐怖を感じながらアスランとはホテルへと戻った。





その後、オーブに戻ったアスランがどうなったのかはまた別の話である――。





















この作品はお世話になりましたお礼+サイト3万Hit記念に書かせていただきました。
瀬尾彩音様リクエストのガンダムSEED DESTINY夢です。
彩音様、リクエスト通りになっているでしょうか?

大変お待たせいたしました!!後編をお届けです。
何だか思った以上に長くなってしまいました。(汗)
え〜結果、逆ハーでアスラン落ちとなりました。落ちといえるのかどうか微妙なところですが……。
予告通りにギャク……になっていればいいのですが……。
ヒロインさんは皆に愛されてる人なのです。+天然ボケ。
おかげで周りが苦労してます、はい。

少々セクハラ路線に走りましたが、楽しんでいただければ幸いです。
おまけに黒カップルまで登場。
アスランがその後どうなったのかは私も知りません。(えっ?)

こんな駄作ではございますが、御礼+サイト3万ヒット記念にお贈りいたします。
いらなかったら返品してくださってもかまいませんので。(苦笑)

2006.2.5   水原 琳