ドリーム小説
軍師様たちは大忙し?
ある夜、各国の軍師たちのもとにある密書が届いていた――。
密書に目を通した軍師たちは指定された場所に急ぎ集まった。集合場所で皆を待ち構えていたのは、蜀の軍師・ゥ葛亮だった。
「随分と早かったですね。お待ちしておりましたよ、皆さん」
「ゥ葛亮、いったいどういうつもりだ?」
「そうですよ。いったいどういうつもり私たちを呼び出したんですか?」
どうして呼び出さなければならないのか、納得のいかない周瑜はゥ葛亮に詰め寄った。同じように納得いかない陸遜もゥ葛亮に詰め寄った。
「ふん、くだらん話ではないだろうな?」
「先生……」
司馬懿は吐き捨てるように言うとゥ葛亮を睨みつけた。それを見た姜維は心配そうな顔でゥ葛亮を見つめていた。
今日なぜ各国の軍師たちをこの場に集めたのか、姜維はゥ葛亮がいっさい何も聞かされていなかった。
(秘密裏に各国の軍師たちを集める、ということは何か重大なことが起こっているのだろうか?)
皆が見守る中、ゥ葛亮は静かにその口を開いた。
「実は皆さんに集まっていただいたのは他でもありません。(私の)『』のことについてです」
「ゥ葛亮、いったい(私の)『』に何があったというのだ?」
「それは……(私の)『』殿に何かあったということですか?」
「何?(私の)『』についてだと?」
「先生、(私の)『』殿にいったい何が……」
ゥ葛亮の発言に皆それぞれ似たような反応を示した。上から周瑜、陸遜、司馬懿、姜維の順である。
何気に『』を自分のもとだということも言葉に含まれている。
「最近他の方々の様子がおかしいのです。むやみやたらに(私の)『』に近づきすぎています」
「確かに先生の言うとおり、最近(私の)『』殿に近づく方々(先生も含め)が多いですね」
「魏や呉のほうではどうなっています?」
ゥ葛亮の言葉を聞き、三人はハッ、とした。言われてみれば、確かにここ最近『』に他の者が近づきすぎているように思える。
三人の表情からそれを感じ取ったゥ葛亮はある提案をした。
「そこでです。
皆さんに集まっていただいたのは、他の方々が(私の)『』に近づかないようするために皆さんの協力が必要なのです」
「そういうことならば私も協力しよう(誰が貴様のだ)。
(私の)『』のためにも頑張ろうではないか、陸遜」
「はい、そうですね(誰があなたのですか?)。(私の)『』殿ために頑張りましょう、周瑜殿」
「ふん、そういうことならば私も協力しないわけにはいかぬな(誰が貴様らのものだ)。
(私の)『』のためにも何とかしよう」
「先生、私たちも頑張りましょう(何を言っているのですか)。(私の)『』殿のためにも頑張りましょう」
「そうですね(誰があなたのものだと?)。
皆さんも協力してくださるようですし、他の方々が(私の)『』のためにも頑張りましょう」
「「「「お――――っ!!((((誰が貴様のものだ))))」」」」
かくして、一人の少女――のために軍師たちの間には協定が結ばれた――。
軍師様たちは大忙し?
各国の軍師たちに守られる(?)ことになった『』はというと、実はこの世界の人間ではない。時空を越えてこの世界にやってきた少女なのだ。
こちらにやってきた当初は初めて見ることばかりに戸惑っていたようだが、ここ最近はここでの生活にも慣れて落ち着いてきたところであった。
はいたって普通の現代の女子高生なのだが、あの軍師たち曰く笑顔がとてつもなく可愛らしいのだ。そのため周りの武将たちにの人気は急上昇中!!おかげで軍師たちは早急集まったというわけだった。
は魏・蜀・呉のどの国でも好きなように行き来ができる。初めにこの世界にきたときにいた国は魏だったが、他の二国の使者が訪れたときにその国の話を聞いたが、一言「行ってみたい」と興味を示したので、曹操が渋々許したのだ。
曹操はのことを実の娘以上に可愛がっていたので、大層悔しがっていたとかなんとか……。
そのこともあっては他の国でも皆に好かれ、自分が行きたいときにいつでも訪問できるようになっていた。
現在は、一番初めに来た国・魏に滞在していた。
甄姫に着せ替え人形のように次から次へといろいろな衣装を着せられていたはぐったりとしていた。ここへきてからというもの毎日毎日、ああでもない、こうでもない、と言って甄姫に着せ替えられているのだ。
としては衣装を着ること自体は別に嫌でも何でもないのだが、ともかく時間がかかりすぎるのだ。以前自分で選んだ衣装を着ていたことがあったが、それを見た甄姫が即座に着替えさせてしまったことがあった。
甄姫曰く「これではせっかくの可愛い顔が台無しですわ」ということらしい。
それ以来甄姫は、には自分が選んだ衣装以外は着せないように、と侍女たちに命を出していた。
一通り着替えさせて満足したのかようやく甄姫はを解放した。
「さあ、これでいいですわ。、お茶にしましょう」
「……はい」
ようやく解放されたは疲れきった声で返事をした。
向かい合って腰を下ろしてお茶を飲んでいるの姿を見て、甄姫は嬉しそうに微笑んだ。
甄姫の視線に気づいたは不思議そうな顔で首をわずかに傾げていた。が首を傾げると、の髪を飾っている髪飾りがチリン、と音を立てる。
今日が着ている衣装は、薄い藍色の衣を何枚にも重ねてさらにその上から鳳凰が刺繍されている上着を重ねたものだ。
それはより一層の可愛らしさを引き立たせるために甄姫が職人に命じて作らせたものだった。それを見て甄姫はさらに笑みを深くした。自分が思っていた以上にに似合っていたので甄姫は嬉しくてしかたがないのだ。
いつまでも笑みを浮かべている甄姫に痺れを切らしたは眉を顰めた。
「どこかおかしいですか?」
「いいえ、とてもよく似合っていますわ」
「えっ?あ、ありがとうございます」
満面の笑みを浮かべたまま賛辞の言葉を贈る甄姫に、はわずかに頬を赤くしてお礼の言葉を述べた。そうして和やかな時間を二人は楽しんでいた。
甄姫と楽しく会話していたは急に背後から誰かに抱きつかれた。突然のことに驚いたは声を上げた。
「きゃっ!!」
を背後から抱きしめている人物を見て、甄姫は眉を顰めた。の背後にいる人物を少しばかり怒りを込めた目を睨みつけた。
「張コウ殿、が驚いているではありませんか。早くその手をお放しなさい!!」
「えっ?儁兄?」
甄姫の言葉に驚いては上を向いた。が首を動かすと髪飾りがチリン、と音を立てる。
が見上げた先にあったのはよく見知っている張コウの顔だった。そのことに安堵したはほっ、とため息を吐いた。
「儁兄〜〜、驚かさないでよ」
「それはすみません、。あなたがあまりにも可愛らしいものですから……。よくお似合いですよ」
満面の笑みを浮かべて平然と言う張コウに、は言葉が出なかった。そればかりか、顔を真っ赤にさせて俯いてしまった。それを見た張コウはさらにを抱きしめている腕に力を込めた。
(本当に可愛らしい方だ)
満足そうに笑みを浮かべ続けている張コウに甄姫は呆れてため息を吐いた。
「おいおい、さっきの悲鳴はいったい何なんだ?」
そう呟きながら夏侯淵が姿を現した。先ほどが上げた悲鳴を聞き、駆けつけてきてくれたのだ。
「夏侯淵殿、張コウ殿に抱きつかれてが驚いたのですわ」
「そうなのか?急に悲鳴が聞こえたから何かあったのかと思ったじゃないか」
「淵兄〜〜、ごめんなさい」
甄姫は苦笑いを浮かべながら夏侯淵に説明した。説明を受けた夏侯淵は呆れたような顔でを見つめた。は張コウに抱きしめられたままの状態で、苦笑いを浮かべたまま謝罪した。
夏侯淵はの傍までくるとその頭を撫でた。はくすぐったいのか嬉しそうに目を細めている。
「何はともかく何ともなくてよかったな」
「うん!!」
そんな中、突如張コウの背後から紫色のビームが飛んできた。張コウと夏侯淵は素早くそれを避けた。
こんな紫色のビームを放つ人間はこの魏にただ一人しかいない。
二人はビームが飛んできたほうへ目線を向けた。二人が向いた先にいたのは予想通り魏の軍師・司馬懿がいた。
司馬懿はビームが外れたことにチッ、と舌打ちした。
「外れたか……」
その様子に二人は冷や汗を出ていた。今のは間違いなく二人を狙ったものだ。
「これは司馬懿殿、どうなされたのです?(私を殺すつもりですか?)」
「いや、話し声が聞こえたものでな(もちろんそのつもりだが?)」
「そうでしたか(そう簡単殺されはしませんよ?)」
「それで何を話していたのだ?(ふん、笑わせてくれるな)」
二人の間に暗雲が立ち込めている。これには係わらないほうが身のためだ、と夏侯淵はこっそりとこの場を後にした。
「あぁ。
今日のは一段と可愛らしい、と話していたのですよ。(いくら司馬懿殿と言えど、は渡しませんよ?)」
「あぁ、今日は一段と愛らしいな(いつからは貴様のものになったのだ?)」
チラリ、とのほうを盗み見た司馬懿は平然と言葉を放つ。は再び顔を赤く染めた。本人を無視して二人の会話はどんどんエスカレートしていっている。
「そうでしょう?(いつからって、がここにきたときからですよ)」
「あぁ(馬鹿めっ!!貴様などにが渡せるものか!!)」
一向に終わる気配のない言い合いに、はどうしたらいいのかと迷っていた。の後ろで甄姫がぽつり、と呟いた。
「どうしようもない殿方ばかりですわね(の気持ちは無視ですか?)」
しばらく心配そうに二人を見ていたはふとあることを思い出した。
「あっ!!そう言えば、月英様に勉強を教えてもらうことになってたんだわ」
はガタッ、と勢いよく椅子から立ち上がった。その行動に目を丸くした甄姫だったが、らしい、と微笑を浮かべていた。
「、もう行ってしまうのですか?」
「甄姫様、ごめんなさい。また必ず遊びに来ますから」
少し残念そうな顔で尋ねてくる甄姫にはペコリ、と頭を下げて謝った。本当はもっとここにいたいのだが、月英との約束を破るわけにもいかない。
の一生懸命な姿を見た甄姫は一つため息を吐くと、苦笑いを浮かべた。
「わかりました。気をつけて行くのですよ?」
「はい。では行ってきます!!」
元気よく部屋を飛び出していくを、姿が見えなくなるまで見送っていた。見えなくなったところで甄姫はまだ争っている二人を見た。
「お二人ともいつまでそうしているおつもりですか?」
その声を聞き二人は同時に甄姫のほうに目線を向けた。とそこにいるはずのの姿がないことに初めて気づいた。
「「はどこにいったの(だ?)ですか?」」
「でしたら蜀の月英殿のもとへ行きましたよ」
たった今気づいたとばかりの二人の様子に、甄姫は呆れた怒りのようなものが混ざった視線を投げつつ答えた。
「「何?(ですって?)」」
ぴったりと声を揃えて上げる二人に、甄姫はそっ、と嘆息した。もはや呆れて何も言えなかったとか――。
一方蜀の国では――。
ゥ葛亮の妻である月英がの到着を今か今かと待っていた。
「、遅いですね。何かあったのかしら?」
月英がそう思っていると扉の向こうから誰かが走ってくる音が聞こえてきた。その音はそのままこちらに向かってきている。
何事かと疑問に思っていると部屋の扉が勢いよくバンッ、と開かれた。扉の先にいたのは月英が到着を心待ちにしている人物だった。
「!?」
「げ……月英様。お……遅くなり……ました」
はそこまで言い終えるとその場にズルズルと座り込んでしまった。その様子に月英が慌てての傍まで駆け寄ってきた。
「!!大丈夫ですか?ともかくこんなところに座っていてもしかたがありません。ともかく部屋の中へ。、立てますか?」
「な、何とか……」
座り込んでいるに手を貸して立たせ、月英は椅子にを座らせた。は半分月英に引きずられるようにして部屋の中に入った。
やっと気持ちが落ち着いたのか、は月英が入れてくれたお茶を一口飲みほっ、と息を吐いた。
「もう大丈夫のようですね」
「ご心配おかけしました……」
ほっ、と安堵のため息を漏らす月英には身を小さくしながら答えた。
「落ち着いたところで早速勉強に入りましょうか?」
「はい。お願いします」
二人が勉強に入ろうとしたところ、ノックもなしに扉が勢いよく開かれた。二人は同時に扉のほうに顔を向けた。
「よっ!!、元気か?」
「馬超様!?」
「馬超、突然扉を開けるのは失礼ではないか?」
「えっ?趙雲様も?」
突然部屋の中に入ってきた馬超には驚いた。その後ろから趙雲が馬超に注意しながら顔を出した。はさらに驚きの声を上げる。
その様子を見ていた月英は深くため息を吐き、二人を呆れたような顔で見た。
「馬超殿、趙雲殿ももう少し静かに入ってきていただけませんか?」
「それはすまない」
「失礼いたしました」
二人は即座に謝った。悪いのは馬超だけのはずなのだが……。
「それで、お二人ともどうされたのですか?」
「いや、がものすごい勢いで走っていったからな。何かあったのかと思って……」
「声をおかけしたのですが、気づいておられなかったようなので……」
月英のことを気にしてか、二人は語尾を濁らせて答えた。二人の言葉にはえっ?と小さく声を上げた。
「それって……私のせい?」
の言葉にそうだ、とも頷けずに二人は困ってしまった。その様子から自分のせいだと思ったは素直に謝った。
「ごめんなさい。月英様との約束に遅れそうだったから急いでたの。だから……」
「いえ、殿がそこまで気になさるほどのことはありません」
「まあ、ともかく何事もなくてよかったな」
趙雲が気遣うように笑みを浮かべれば、馬超も安堵したような顔での頭を撫でていた。そのことに安心したは嬉しそうに笑みを浮かべていた。
それを見た二人はわずかに頬を赤く染めた。
(やっぱり可愛いよな。俺のは)
(やはり殿は可愛らしい方だ)
のことに関しては二人とも考えていることは同じようだ。直後、二人は背後から嫌な気配を感じた。むしろ殺気に近いような気もする。
誰がこんな殺気を放っているのか二人が考え込んでいると、ある人物たちが部屋の中に入ってきた。そのことにいち早く気づいた月英が声を上げた。
「孔明様、それに姜維殿まで……。どうかしたのですか?」
「いえ、何やら楽しそうな声が聞こえてきましたので(お二人ともこんなところで何をしているのですか?)」
ゥ葛亮は微笑を浮かべつつ答えた。しかし背後にはや月英には見えない黒いオーラを出した状態だった。
「それにしても丁度よかったですね。
今趙雲殿をお捜ししていたところだったのです(私のにいったい何をしようとしていたのでしょうね?)」
「そうだったのですか?(べ、別に何もしておりませんが……)」
「趙雲殿、少しよろしいですか?(そのことについて後でたっぷりとお話させていただきますよ?)」
「はい、わかりました。それでは殿、また……(本当に何もないのですが……)」
趙雲はペコリ、と頭を下げるとゥ葛亮の後について部屋を出て行った。この後悲惨なことが待っているとも知らずに――。
姜維はふいにの頭に手を置いたまま固まっている馬超に声をかけた。
「馬超殿、これから私と練習試合はしませんか?(もちろん容赦はしませんよ?)」
「わ、わかった。俺でよければ相手をしよう(俺が何をしたって言うんだ?)」
「では、行きましょう(わからないのですか?)」
「お、おう。またな、(わからないから聞いてるんだ)」
「殿、また後程伺いますから(後で教えて差し上げますよ。それはもうたっぷりと)」
姜維はそう告げると馬超と共に外へ出て行った。あっという間の出来事に、と月英とは目をきょとんとさせていた。
「さあ、誰もいなくなったことですし、始めましょうか?」
「あっ、はい」
しばらくそうしていた月英だったが気を取り直して、早速の勉強にとりかかろうとした。が、扉をコンコンとノックされて月英の侍女が遠慮がちに部屋に入ってきた。
「月英様、お取り込み中のところ申し訳ありません。実は少々困ったことになりまして……」
「困ったこと?」
「あっ、はい。実は……」
月英の近くまで来た侍女はには聞こえない音量でそのことを伝えた。詳しく話を聞いた月英は少し思案していたが、考えがまとまったのかを見た。
「には申し訳ないのですが、勉強はまた今度ということにしていいですか?」
「えぇ、別にいいですけど?」
「本当にごめんなさいね。それではまた」
申し訳ないといった顔で月英はに謝ると侍女と共に部屋を出て行った。それを笑顔で手を振り、送り出したは一つため息を吐いた。
「月英様も行ってしまわれたし、皆さんは何だか忙しそうだし……。呉の尚香のところにでも行こうかな?」
ぽつり、と呟くとは立ち上がり、呉の孫尚香のもとへと向かった。
呉の国・孫尚香の部屋では、部屋の主である孫尚香と大喬・小喬姉妹、それに先ほど着いたばかりのがお茶を楽しんでいた。
「それにしてもさっきは本当に驚いたわよ」
「えぇ、本当に驚きましたね」
「ねぇ〜〜、本当だよね〜〜」
「うっ……。ご、ごめんなさい……」
呆れたようなおかしいような顔で話す孫尚香、大喬、小喬に、は言葉を詰まらせてしまった。そんなに孫尚香がさらに追い討ちかける。
「ぱっ、と窓のほうを向いたらがいたんだから」
「えっ、だってそれは……」
孫尚香はニヤリ、と意地の悪い笑みを浮かべながら、の反応を楽しんでいる。言われたはというと、頬をわずかに赤く染めてあたふたと何かを口にしようとするが、うまく言葉が出てこないでいた。
が呉に到着して真っ先に向かったのは親友である孫尚香の部屋だった。部屋の前まできたは中から聞こえてくる楽しそうな話し声に気づいた。
楽しそうな話し声には中へ入ることを躊躇った。そっ、と近く窓から中の様子を窺っていたのだが、ふと孫尚香と目が合ってしまった。慌てて隠れようとしたのだが、時は遅く孫尚香にあっさりと捕まってしまったのだった。
の慌てぶりに孫尚香と小喬はもう我慢ならないと盛大に笑い出した。
「も、もうわかったから」
「ってば、おもしろ〜〜い!!」
「えっ?なっ?……尚香〜〜!!からかったのね〜〜!!大喬まで〜〜」
大喬も控えめながら笑っている。は顔を赤く染めて喚いていた。
初めは何のことか理解できなかっただった。が、二人様子から遊ばれていたのだとわかった瞬間、怒りがふつふつと込み上げてきてぷいっ、とそっぽを向いてしまった。
それに慌てたのは親友の孫尚香である。何とかの機嫌を直そうと躍起になっている。
「〜〜、ごめんってば。いいかげん機嫌直して?」
「いや」
「〜〜」
孫尚香の行動もむなしく、の機嫌はよくならない。そのとき聞きなれた声が扉のほうから聞こえてきた。4人は同時に扉のほうに目線を向けた。
「何だ何だ〜〜?声が聞こえると思ったらじゃねぇか」
「へっ?甘寧……と周泰殿?」
皆が振り向いた先にいたのは甘寧と周泰だった。
たまたま近くを通りかかった二人はにぎやかな声が聞こえたので、立ち寄ったらしい。
「で、いったい何をもめてるんだ?」
「が機嫌を直してくれないのよ」
「尚香が悪いんでしょ?」
はそう言うとぷいっ、とそっぽを向いてしまう。の態度に孫尚香は苦笑いを浮かべるしかなかった。
(あいかわらず可愛いな〜〜)
(可愛い……)
「おいおい、それじゃわからねぇじゃねぇか」
「実は……」
事情がさっぱりわからない甘寧は唸った。混乱している甘寧に大喬が代表して説明をした。
事情を聞いた甘寧は呆れたようなため息を一つ吐いた。の頭に手を置き、顔を覗き込むようにして甘寧は小さい子に言い聞かせるように言った。
はわずかに顔を曇らせると、しぶしぶといった様子で頷いた。
「、いいかげん許してやれよ。なっ?」
「……わかった」
「よしっ!!」
「ちょっと!!やめてよ〜〜、子供じゃないんだから!!」
甘寧はの頭をわしゃわしゃを乱暴に撫でた。は何とか止めさせようと甘寧の手を退けようとしたが、男女の力の差もありできなかった。
の髪がぐしゃぐしゃになったところで気がすんだのか、甘寧はの頭を撫でるのを止めた。孫尚香に向かってニヤッ、と笑み浮かべた。
「まっ、こういうことだ。これでいいだろう?」
「本当にごめんね、」
「もういいわよ。次はないからね」
は念には念を、と脅しの言葉をかけて孫尚香を見つめた。そんなを可愛いな〜〜と思いつつ、孫尚香は苦笑いを浮かべた。
「わかったわ、もうしないから。それよりもは頭ボサボサよ?」
「えっ?本当?」
「本当よ」
孫尚香は手鏡を持ち出してきてに手渡した。渡された手鏡を覗き込んだは、鏡に映る自分の姿を見て声を上げた。
「あっ!!本当だ。……甘〜〜寧〜〜!!どうしてくれるのよ!!」
「わ、悪かったよ」
「せっかく甄姫様に結って貰ったのに〜〜!!」
は目元にうっすらと涙を溜めて甘寧に詰め寄った。甘寧は涙を溜めた目で下から睨みつけてくるを、不謹慎にも可愛いな〜、などと思いつつ見下ろしていた。
そのとき、甘寧のすぐ横を目にも留まらぬ速さで何かが突き刺さった。恐る恐る見て見ると、そこには見覚えのある双剣が……。
甘寧はさっ、と血の気が引いた。ぎこちなく双剣が飛んできたほうへ首を向けた甘寧の視線の先には、背後に黒いオーラを……もとい殺気を放っている呉の若き軍師・陸遜の姿があった。
「り、り、陸遜!!」
「えっ?陸遜?」
甘寧の一言には疑問の声を上げて振り向いた。皆も同じように扉のほうに目線を向けた。
「甘寧殿、捜しましたよ。(私のにいったい何をなさっているのですか?)」
「捜してたって……何かあったのか?(い、いや、何って何もしてないぞ?)」
「いえ、少々お聞きしたことがあったもので……。
(何もしていない?ではその状況はどういうことか説明していただけますか?)」
「わ、わかった。(ご、誤解だ!!俺は何もしていないっ!!)」
「殿、また後程お話いたしましょう。(後でじっくりと聞かせていただきますよ)」
戸惑っているに悪いな、と一言小さく呟くと横に退けて部屋を出て行こうとした。が、後ろから大声で呼び止められた。
「ちょっと甘寧!!今日はあたしと手合わせしてくれる約束だったでしょう?」
「あっ?そうだったか?」
「そうだよ!!」
「今日は無理だな。周泰にでも相手してもらってくれ。(俺はまだ死にたくないんだ)」
「えぇ〜〜!!ちょっと甘寧!!」
「じゃな……」
文句を言う小喬よりも背後に立つ陸遜のほうが何倍も怖い。賢明な判断を下した甘寧は陸遜とともに部屋を後にした。
甘寧の後ろ姿が見えなくなるまで文句を並べていた小喬だったが、諦めがついたのかくるり、と周泰のほうに振り返った。
「ねっ、周泰。今から時間ある?
あるならあたしと手合わせしてほしいな〜〜って思うんだけど……。だめ?」
「……わかった」
首を傾げて可愛らしく尋ねてくる小喬に、周泰はそっ、とため息を吐くと、淡々とした短い答えを返した。
「わ〜〜い!!じゃあちょっと行ってくるね!!」
「あっ、小喬!!」
小喬は嬉しそうに声を上げると、姉である大喬の制止を無視して先に部屋を出て行った周泰の後を追いかけて行った。それを見送った大喬は一つため息を吐いた。
「いっちゃいましたね」
「「いっちゃたわよね」」
苦笑いを浮かべて呟く大喬に、と孫尚香は声を揃えて繰り返した。三人は顔を合わすと同時に笑い出した。皆考えることは同じらしい。
一通り笑い終えた三人はほっ、と息を吐いた。部屋を見回して大喬はわずかに笑みを浮かべて呟いた。
「それにしても静かですね」
「ほんとよね〜〜。さっきまで賑やかだったのが嘘みたい……」
「でもこれはこれでいいんじゃない?」
「それもそうね」
三人の少女はそれぞれ笑みを浮かべた。辺りは静けさに包まれていた。が、それも束の間、一人の乱入によって壊されてしまった。
「尚香!!少しの間でいい、匿ってくれ!!」
「策兄様!?また、仕事抜け出してきたんでしょう?」
「えっ?またですか?孫策様!!」
「へっ?だ、大喬!!いたのか……」
勢いよく扉を開けて部屋に飛び込んできた孫策は、妹の孫尚香と妻の大喬の二人から揃って冷たい目で見られてしまった。孫策が居心地の悪さを感じながらふと二人の後ろに視線を向けると、突然のことにきょとん、としてこちらを見ているの姿を見つけた。
「おっ?じゃねぇか。来てたのか」
「へっ?あっ、はい。お邪魔しております」
ぼけ〜〜と三人の様子を見ていたは、孫策に突然声をかけられて言葉遣いがいつもと多少違っている。
妹と妻を横に退けて傍まできた孫策は、の姿を見てほぉ〜、と感心したような声を上げて見下ろしている。必然的には孫策を上目遣いに見つめることになる。
「なかなかいいじゃねぇか。似合ってるぜぇ。
どうしたんだ、この衣装は?(さすが、だぜぇ。可愛いじゃねぇか)」
「えっ?そうですか?あ、ありがとうございます。これは魏の甄姫様に着せていただいたのです」
ニヤリ、と笑みを浮かべて賛辞を述べる孫策。言われたは頬をわずかに赤く染めて嬉しそうに微笑んだ。
「へぇ〜〜、そうなのか。よかったな、」
「そ、孫策様?ちょ、ちょっとやめてください」
嬉しそうに微笑んでいるの頭に手を置き、孫策は甘寧と同じようにわしゃわしゃと撫でた。は慌てて止めようとしたが、力では敵うはずもなく……結局はされるがままになっている。
の頭を乱暴に撫でていた孫策は、背後に冷たい視線……いや殺気を感じてたらり、と冷や汗が流れた。急に固まってしまった孫策をは不審な顔で見つめていた。
「孫策。君はここで何をしているのだ?
まだ仕事は終わっていないだろう?(私のに何をしていた?)」
「い、いや、周瑜。仕事は後からちゃんとやる。
だからな、ここは見逃してくれ!!(べ、別に何もしていないぜぇ……)」
「そう言っていつもどこかへ行ってしまうのは誰だったかな?
(何もしていないと?それでも何もしていないと言えるのか?)」
「そ、それはだな……。(本当だぜぇ。本当に何もしていないって……)」
周瑜は孫策から目を離さずに睨み続けている。一方孫策は首だけを周瑜のほうに向けて冷や汗をだらだらと流しながら、何とか逃れる方法はないものかと普段は使わない頭を使って考えていた。
目だけはきょろきょろと、動かしている孫策を見て、周瑜はそっ、と嘆息した。
「ともかくだ。孫策、君には仕事に戻ってもらうぞ?(詳しい話は後でゆっくりと聞くとしよう……)」
「なっ!?周瑜、それは……。(ご、誤解だ、周瑜。本当に俺は何もしていないって!!)」
「あぁ、そうだ。
大喬殿には孫策の見張りをお頼みできますか?(どちらにしても君には聞きたいことがたくさんあるのでね)」
「わかりました、喜んで。さぁ、孫策様行きましょう!!」
大喬は満面の笑みを浮かべながら、未だ固まったままの孫策の腕を掴みずるずると引きずりながら部屋を後にした。妻に引きずられた状態のまま孫策は孫尚香に助けを求めてきた。
「お、おい、大喬?尚香、助けてくれ!!」
「策兄様……自業自得でしょう?
さてと姉様一人じゃ大変だと思うから行ってくるわね。のことよろしくね、周瑜」
「あぁ、わかった」
呆れたようにため息を吐いた孫尚香は部屋を出るさいにのことを周瑜に頼んで、大喬と孫策の後を追いかけて行った。
孫尚香を見送った後、一つため息を吐くと周瑜は扉を閉めてのほうに振り返った。
「すまない。孫策が迷惑をかけたようで……」
「いえ、大丈夫です」
申し訳ないといった顔で素直に謝罪する周瑜には笑みを浮かべて答えた。周瑜は苦笑いを浮かべるとの傍まで近づいてきた。そしてそっ、と頭に手を伸ばした。
「頭がボサボサだぞ?」
「えっ?……孫策様のせいです!!せっかく綺麗に直したのに……」
周瑜に言われては慌てて手鏡を覗き込んだ。綺麗に直したはずの髪がまたぐしゃぐしゃになってしまっている。
は少し悲しそうに呟いた。語尾をだんだん小さくさせて話すに周瑜はふっ、と笑みを浮かべると後ろに回り込んだ。
「、櫛を貸してごらん。私が梳いてあげよう」
「えっ?でも……」
は戸惑いながら鏡ごしに周瑜を見つめた。周瑜は笑みを崩さずにの髪を撫でながら答えた。
「大丈夫だ。心配することはない。ここには誰もいないのだしな」
「じゃあ、お願いします」
「まかせてもらおう」
がしぶしぶと櫛を渡すと、周瑜は早速の髪を梳かしにかかった。は自分の髪が綺麗に梳かされいく様子を鏡ごしにじっ、と見つめていた。
周瑜の手際のよさに思わず感嘆の声が漏れる。そうこうしているうちにの髪は綺麗に整えられていた。
「さあ、終わったぞ」
「あ、ありがとうございます」
周瑜はの髪を梳き終わるとぽんっ、と軽く頭を叩いた。綺麗に仕上がった自分の髪を見て、は何だか気恥ずかしくなった。
「かまわぬさ。それよりも」
「あっ、はい」
「この衣装はどうしたのだ?」
「あぁ、これですか?魏の甄姫様に着せていただいたのです。変ですか?」
「いや、よく似合っている」
周瑜は笑みを浮かべながらの髪を一房手に取り口付けると、の耳に口寄せて囁いた。はビクッ、と体を強張らせ、頬を赤く染めてさらに顔を俯かせた。
顔を赤く染めて俯いているに、一層愛おしさを感じた周瑜はそっ、と後ろから抱きしめた。急に抱きしめられたはどうしたいいのかわからず、頭を混乱させて固まっていた。
「しゅ、周瑜様!?」
「どうした?――」
「……っ!!」
またも耳元で囁かれては、ぱくぱく、と口を動かすだけで言葉が出てこなかった。を抱きしめたまま周瑜は願った。
(このまま時が止まっていてくれたらな……)
しかし周瑜の願いも虚しく、この時間は壊されてしまった。
「なあ、周瑜。これはいったいどういう……」
呑気な声を上げながら、ノックもなしに部屋に入ってきた孫策は、ぴたり、と立ち止まった。怒りに肩を震わしている周瑜を見て孫策はさっ、と顔を青くした。
(やべぇ〜〜。本気で怒ってるぜぇ……)
冷や汗をダラダラ流している孫策に向かって、周瑜は満面の笑み……それも黒いオーラを背後に漂わせて浮かべていた。
「孫策、その件については別室でじっくりと話をしよう。(よくもとの時間を邪魔してくれたな)」
「お、おぅ!!そうだな……。(わ、わざとじゃねんだ――!!)」
「、すまないがまた今度、ゆっくりと話をしよう。(許さん!!)」
普段は見せることのない優しい笑みを浮かべると、先に部屋を出た(逃げ出した)孫策の後を追いかけて行った。部屋に一人ぽつん、と残されたは、顔を真っ赤にさせたまま呆然と扉を見つめ続けていた。
孫策の見張りに疲れた孫尚香が部屋に戻ってくるまで、はずっとこのままだったそうだ――。
その数日後――。
を巡って各国の軍師たちの間で争いが起こったのは、また別の話である――。

この作品はサイト1万ヒット記念に書かせていただいた、水城様リクエストの三国無双夢です。
様、リクエスト通りになっているでしょうか?
今回初挑戦の三国無双夢、しかも何気に逆ハ―風味(?)となっております。
「三国無双」は私も好きでゲームをよくやるのですが、こうして作品を書くのは初めてです。
なので、うまく書けるか自信がまったくありませんでした。
いざ書き始めてみると、勝手に話が進む、進む。キャラたちが勝手に動いてくれるのです。
おかげ(?)でこんなに長くなってしまいました。す、すみません。(汗)
でも私本人は書いていてとても楽しかったです♪書いていて思わず笑ってしまったことも。(笑)
こんな駄作ですが、サイト1万ヒットを記念してお贈りいたします。
もちろん返品も可能ですので、ご安心を。
2005.1.5 水原 琳