ドリーム小説






君に微笑みを…  第1話






やっと……。

ここまで辿り着いた――。



貴方と同じ場所に……。









   君に微笑みを…    第1話  貴方と同じ場所に――









桜咲く3月――。

4月に行われる入学式に向けて、紫ノ塚学園は一層の慌しさを見せていた。
生徒たちが春休みの中、着々と準備は進められていく。式の準備をする者、新学年の最初の授業で使う資料を準備する者。
やはり季節の、学年の移り変わりは忙しいものだ。おかげで職員室の中は、ずっと誰かしらの声が聞こえてくる状態だ。
そんな忙しい中、校門の前に立ち尽くす影が一つ――。





腰まで伸びた髪は毛先がゆるく波打っている。背は高くもなく、低くもなく、一般的であろう。
大人びた印象の中に、わずかに幼さが垣間見える。少女と女性……境目が曖昧な年齢であろう。
その少女……いや、女性は強い意思を秘めた瞳で、目の前に建つ校舎を見上げていた。
風に髪が遊ばれるたび、咲き誇る桜の花びらもはらり、はらり、と共に舞う。さながら別の世界に引き込まれたような感覚になる。

何かを改めて強く決めた女性は軽く頷いた。一歩、一歩、しっかりとした足取りで校舎の中へと歩いて行った。







紫ノ塚学園は今年、新しい試みとしてスクールカウンセラーを迎え入れることが決められた。
教育委員会に問い合わせてみたが、なかなか人が見つからずにしばらく保留となっていた。
というのも、日本におけるスクールカウンセラーの数が圧倒的に少ないのが原因だ。そのため、1人のスクールカウンセラーが何校か掛け持ちしているのが現状だ。
校長らがどうしても、と粘り……頼んだ結果、やっと1人のスクールカウンセラーが見つかった。
その人物を紹介した人の話では、まだ若いながらしっかりとやってくれる子、とのお墨付きをいただいた。

そして今日――。

そのスクールカウンセラーが着任の挨拶に訪れることとなっていた。







新学期の資料を整理していた日本史教師・天馬彩人は、かすかに聞こえてくる音に首を傾げた。
資料から目を上げ、扉のほうに顔を向けた。だが、何ら変わりはないように思える。

(気のせいだったか……)

再び目線を資料に戻して作業を続けた。
職員室の中で椅子に腰を下ろして、黙々と資料に目を通している姿はどこか違和感を覚える。それは彼の容姿が原因なのだろう。
整えられた髪、きっちりと着こなしたスーツ。どこか掴みどころのない性格を醸し出している。
とても教師には見えない。むしろホストといったほうがしっくりくるだろう。
少し間をおいてから、また軽く扉を叩く音が聞こえてきた。先程よりは大きくはっきりと聞こえてくる。

(気のせい……じゃなかったみたいだな)

扉の向こうに人がいることをはっきりと認識した彩人はため息を吐いた。
初めは自分だけしか気づいていなかったようだが、今度は他の教師も数名気づいたようだ。
目線をそちらに向けて扉が開かれるのを待った。

一呼吸分の沈黙の後、扉が開く特有の音が職員室内に響いた。作業をしていた教師たちはその手を止めて扉のほうに目線を向けた。
騒々しかったこの部屋も一時的に静まり返る。

どこか緊張した面持ちの女性が軽く頭を下げてから足を踏み入れた。扉を閉めて前を見据えた。
他の教師たちが新任の教師だろうか、と不思議な顔をしている中――。
彩人だけは驚いた表情を浮かべていた。思わず名を呼びそうになったが、呑み込むことができた。
同じ同僚であり、この学園の保健医をしている友人・羽野蝶子の様子を窺えば、特に驚いた様子はない。

(羽野は……知っていたみたいだな……)

苦笑いを浮かべて視線を戻せば、自然に女性と視線が交わる。それに気づいた女性はにっこり、と笑みを浮かべた。
女性の姿の見つけた教頭は満面の笑みを浮かべて招いた。

「あぁ、お待ちしておりました。どうぞこちらへ……」
「あっ、はい」

遠慮がちに教師たちの間をすり抜け、教頭の隣へと移動した。
やはり新任の教師なのだろうか、と職員室内はざわめき始める。そんな中で彩人はずっと女性の姿を目で追っていた。
二人で軽く何かを話した後、再び教頭が声を上げた。

「え〜〜、先日の職員会議でも話がありましたが……。
今年から本校にもスクールカウンセラーの方に来ていただくことになりました。
その方がお見えになったのでご紹介したいと思います」

その話を聞いてひそひそ、と話す声があちら、こちらから聞こえてくる。
だが、それもしかたがないことだろう。スクールカウンセラーというからにはもう少し年配の方がくるものだとほとんどの者が思っていたのだ。
しかし実際教頭の隣に立つ女性はずいぶんと若い。二十代前半、下手をすると十代後半にも見えなくはない。

「ではよろしくお願いします」
「はい」

皆からの視線を全身に浴びながら、一呼吸置いて口を開いた。

「本日よりお世話になります。スクールカウンセラーとしてやって参りました。
と申します。まだまだ未熟者ではございますが、どうぞよろしくお願いいたします」

ペコリ、と頭を下げると同時に暖かな拍手が聞こえてきた。
そこでやっと緊張が少しだけ解けた。自然と安堵したような笑みを浮かべた。


そっ、と彩人の様子を横目で窺えば、いつも通り何を企んでいるかのような笑みを浮かべていた。
しかしそれは表面上だけで、向けられている視線が痛いくらいである。

(絶対に怒ってる……)

内心焦ってはいるものの、やってしまったものはしかたがない。
これから同僚となる友人に助けを求めようと目線を向けるが、困ったような笑みを浮かべている。


要するに、自分でどうにかするしかないらしい。


(どうしよう……)





こうして……。


新しい生活が始まる――。







少々不安な面もあるけれど……。





















待っていてくださった方、本当にありがとうございます。
やっと第1話をお届けです。いかがでしたでしょうか?
作品中、ヒロインの名前は一箇所のみ……す、すみませんっ!!
次回から本格的にスタートですので。一応はこの話は序章のようなものです。

さて、ヒロインさんはスクールカウンセラーという、他のサイト様にはない設定となっております。
当初は普通に彩人と同じ教師のほうがいいかな〜と思っていたのですが……再度設定を構成したらこうなってました。
スクールカウンセラー、ご存知の方、そうでない方にも楽しんでいただける作品にしていきたいと思っております。
どうぞ末永く見守ってやってください。

この長編は一応原作沿いとなります。
が、ヒロインさんは原作主人公・圭と歳が離れているため、原作沿いでも少し違った感じになるかもしれません。
もちろん途中でオリジナルの話も入ってくることになりますので、あらかじめご了承ください。
続きは気長にお待ちいただけると嬉しいです。

ではまたお会いできることを祈って――。

2005.11.3   水原 琳