ドリーム小説
優しい瞳 8 迷い
初めてそれを聞いた時、とても驚いたわ――。
あんな奴のどこがいいのかって……。
でも、あの顔を見たらそんなことはどうでもよくなったの――。
8 迷い 〜迷い、揺れる心――〜
の様子がおかしいことに気づいてから数日が過ぎた――。
表面上は普段と変わりない日々が過ぎている。が、ふと気づいてみれば、かすかにどんよりとした空気が安倍家を包んでいる。
その原因というのが、十二神将の一人・六合だ。
あれから何度かのもとを訪れ、何度か尋ねてみたのだが、その度に困ったような悲しそうな顔を浮かべられてしまう。そんな顔をさせてしまうのは六合の本心ではないため、結局肝心な理由(わけ)は聞きそびれてしまっていた。
片膝を立てて、柱に凭れかけるようにして庭を眺めているのだが、その様子を近くで見たものの反応は違う。
普段は寡黙で感情を表に見せることが少ないあの六合が、いかにも不機嫌です、といったオーラを放っているのだ。
おかげでわりと近くにいた昌浩、彰子、太陰と玄武は時折様子を窺うようにして怯えていた。
もっくんにいたってはいつもと変わらずに、昌浩の傍で体を丸めて目線だけを六合に向けていた。何となく理由を察しているため、あえて何も言わずにいる。
そのとき馴染みのある神気が傍に近づいてきたことを感じた。
「どうしたんだ?六合は」
「勾……」
六合に向けていた目線が自然と勾陳に向けられる。
「あいつが感情を表に出すなど珍しいな」
「勾……」
わずかに驚きを含んだ声で呟く。
その言葉にもっくんは苦虫を数十匹噛み潰したような顔で、首の後ろをわしゃわしゃと掻いた。
「それで?」
「それでって……」
今まで六合に向けていた目線を下に向けた。
見つめられた物の怪は何やら睨まれているような気がして、首の後ろを掻いていた体勢で固まった。
「騰蛇、お前なら何かを知っているのだろう?」
「何かって言われてもな。完全にすべてを知っているわけじゃない――」
「そうか……」
緊張が解けたもっくんは目線を彷徨わせながら答えた。再び六合に目線を戻していた勾陳はただそれだけを返した。
勾陳はしばらく何かを考え込んだ後、一つため息を吐くと動き出した。
「んっ?おい、勾。どこへ行くんだ?」
「こうしていてもしかたがない。直接六合に聞く――」
途中で呼び止められて勾陳は振り返り答えた。
それを聞いて思わず同意しそうになった。と同時に叫んだ。
「あぁ、それは名案だな……って、何ぃ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「「「「えぇ〜〜〜〜〜〜!?」」」」
「うおっ!!」
それまで黙って二人(?)の会話を聞いていた昌浩、彰子、太陰、玄武は遅れて叫び声を上げた。
後ろから四人分の声が一気に聞こえたことに驚いたもっくんは、そのまま前方にべしゃと潰れた。
「勾陳、それはやめたほうが……」
「そうよ!!あんな状態の六合に近づくなんて……」
「うむ、我もそう思う」
わずかに顔を引きつらせて何とか止めようとする昌浩。それに頷いて首を縦に振って同意を示す彰子。
考えただけでも怖い、と体を震わせる太陰。
二人の言い分も確かに、と頷きながら同意する玄武。
顔を顰めながらのそのそと起き上がったもっくんは吼えた。
「お前らな〜〜〜〜〜〜!!」
が、皆は勾陳に注目していたためもっくんの声は綺麗に無視されていた。
皆が注目する中、勾陳は何事もなかったかのように六合のもとへ行ってしまった。
「行っちゃった……」
「嘘……」
昌浩が呆然と呟き、太陰もぽつり、と呟いた。彰子と玄武も呆然と勾陳の後ろ姿を見送っていた。
その横では物の怪こと愛称もっくんが何やら喚いていたが、皆呆然としていたためにまったく聞こえていなかったようだ。
恋人であるの様子がおかしいことに釈然としないまま、六合はずっと庭を眺め続けていた。
ふいに近くに神気を感じた。だが、六合はそちらに目線を向けようとはしなかった。
漂ってくる神気から誰がきたのか判断できたため、体勢を変える必要はなかったのだ。
「勾陳、何の用だ?」
いつもの声音に、わずかに不機嫌さを含んだ声で尋ねた。
「……六合、もう少しどうにかならないのか?昌浩たちが怖がっていたぞ?」
「……」
わずかに眉を顰めただけで何も言おうとはしない。そればかりか空気がさらに重いものになった。
その横顔を見ていた勾陳は、深くため息を吐いた。
「と何があったと言うんだ?六合」
「特に……何かあったというわけではない……」
淡々とした中に、戸惑いの表情を見せながら答えた。
そう六合にしてみれば、特別に何かがあったということではない。
と何かがあった、というよりは、自身に何かあった、と言ったほうが正しい。
いくら六合が尋ねても頑として教えようとはしないのだ。
だからこそ苛立ち、考え込んでいる。
ぽつり、ぽつり、とだが、話を聞き、内容を理解した勾陳は考え込んだ。
(これ以上六合に聞いても詳しいことはわからないな。
……直接、に聞いたほうが早いか……)
腕を組んで考え込んでいた勾陳はそう決めると、こう宣言した。
「六合、ここで考えていてもしかたがあるまい。私が直接に理由(わけ)を聞いてこよう」
「……!?」
わずかに目を見張り、勾陳を見た。
「話を聞いている限りでは、自身に何かあったということなのだろう?
お前にも話さないということは、何か余程話しにくいことなのだろう。
おそらくはあの話が出たのではないかと思うが……」
「あの話?」
意味深な発言に六合は眉を顰めた。
「あぁ……。まあ、本人から話を聞いてみないことには何とも言えないが……」
「そうか……」
眉を顰めたまま、深くため息を吐いた。
「そう難しい顔をするな。理由(わけ)を聞いてから行動しても遅くはないだろう?」
「わかっている……」
宥めるように諭され、苦々しく答えた。
翌日、宣言どおりに勾陳はのもとを訪れていた。
人払いを済ませたの自室で二人は向かい合う形で腰を下ろしていた。どちらとも口を閉じたまま、沈黙を守っている。
時折鳥の鳴き声が聞こえてくるぐらいで、本当に静かなものだ。
沈黙に耐え切れなくなったは口を開いた。
「あの、勾陳?」
「何だ?」
「今日はどうなさったのですか?お一人で訪ねてくるなんて……」
急に訪ねてきたことに戸惑いは隠せない。
何しろ勾陳が式部卿宮の邸を訪ねたのは、晴明の共で訪れたとき以来なのだ。それも一人で訪ねてくるなど、何かあったのかとつい身構えてしまう。
その様子を見てとれた勾陳は苦笑を浮かべた。
「そんなに緊張しなくてもいいのではないか?別にとって食おうというわけじゃない」
「えっ?あっ、えぇ……。ごめんなさい……」
「謝ってもらう必要もないのだがな……」
つい謝ってしまったを見て、さらに苦笑を浮かべた。
「ごめんなさい……」
「ほら、また……」
「あっ……」
また謝ってしまったことを指摘して、勾陳はどこか楽しそうに笑みを浮かべた。指摘されては、自分でも無意識にやってしまったことに苦笑いを浮かべるしかなかった。
そうして二人で笑いあった後、勾陳は今日訪ねてきた本来の目的を遂行するべく口を開いた。
「……」
「あっ、はい……」
「六合と何かあったのか?」
『六合』と聞き、はビクッ、と肩を振るわせ、俯いた。
その様子から、やはり六合との間に何かあったのか、と心配になる。六合に聞いても特に何かあったわけではない、と言うのだが……。
「……いえ、特には何も……」
「……六合と同じことを言うのだな?」
「えっ?」
同じことを言われて、勾陳は深くため息を吐くしかなかった。
六合に聞いても一向にわからないので、こうしてに尋ねてみたというのに……。これでは何ともならない。
一方、それを聞かされたは反射的に顔を上げた。
特に何もない……。確かに二人の間にはこれといって問題はない。ないのだが……問題があるとすれば自分のほうだ。
(何も言わない、私がいけないのでしょうか……)
「……悪いのは、私のほうなのです……」
ぽつり、と呟いた言葉を聞き取り、勾陳は眉を寄せた。重々しく言葉を吐いたはどこか沈痛な面持ちである。
「、いったいどういうことだ?」
「実は、先日父が急に話があるからと、私を呼びまして……」
俯いた状態のまま、ぽつり、ぽつり、と理由(わけ)を話し始めた。
それを静かに聞いていた勾陳は、自分の予想が正しかったことを確信した。
(やはりそういうことか……)
一通り話を聞き終えると、深くため息を吐いた。話の内容があまりにも予想していたことと同じだったため、ため息を吐くことしかできなかった。
(何と言うのか……。お互いにお互いを思って動けなくなってしまったというところか……)
話し終えたはそれきり黙り込んだまま、俯いてしまっていた。
「、他にこのことを知っているのは?」
「他に知っている者はおりません……」
「そうか……。六合に相談するつもりはないのか?」
「えっ?いえ……六合には心配をかけたくはありませんから……」
「……(すでに心配していると思うのだが……)」
軽く顔を上げて驚いたであったが、すぐに困ったような悲しそうな笑みを浮かべた。
勾陳は再度大きくため息を吐いた。
理由(わけ)はわかったものの、このままではどうすることもできない。勾陳が何とかしようにも、神である勾陳にはいったいどうしたらよいのかわからない。
やはりここは誰かに聞くのが一番なのだが……。問題は誰に聞いたらよいのかということだ。
相手が人ではなく、神である。普通の人では相談相手にはまったくならない。
のことをよく知り、そういった類のものが見える、あるいは理解している者などはたしているのだろうか。
「、他にこのことを相談できる相手はいないのか?」
「他に……ですか?」
わずかに首を傾げて尋ね返した。
(他に相談できるような方など……)
しばらく考え込んでいたが、ふと一人だけ、とても頼りになる者がいることを思い出した。
「……そうですわ!!一人だけ相談できる方がおりましたわ!!」
「いるのか!?」
「はい!!名を姫と言うのですが、私の母方の従姉にあたる方ですの」
「従姉の姫……」
「姉様はとても頼りになる方ですもの、何かよいお考えをお持ちだと思いますわ」
「そうか」
先ほどとは違い、どことなく嬉しそうに話すの姿に、勾陳は苦笑を浮かべた。
「では、早速その姫とやらを尋ねてみるか?」
「はい――」
素直に同意したは急ぎ文を届けさせ、自身も支度を整えると、勾陳と共に従姉である姫のもとへ向かった。
とともに牛車に揺られながら、勾陳は思った。
がこれほどまでに頼りにしている『姫』とはいったいどんな姫なのか――。
それもこのことが相談できるということは、と同じかそれ以上の見鬼の才の持ち主ということになる。
楽しみだな――。
そっ、と楽しそうに笑みを浮かべた。

「求婚」編の続き、「迷い」編をお届けですvvいかがでしたでしょうか?
今回六合……というよりは勾陳が活躍しております。
えぇ、素敵な姐さんvv勾陳です。
周りが止めるのも何のその、我が道を突き進んでおります。
肝心の主役二人は題名の通りに迷っております。
二人はいったいどうなるのか!!次回を楽しみにお待ち下さい。
というより中途半端なところで区切って申し訳ないです。(汗)
いつも長くなるので、短くしようとした結果がこれです。
では次回予告。
次回はついに噂の姫の従姉・姫が登場!!
果たして姫はどんな人物なのか。
そしての迷いの行方は……。
次回、優しい瞳・第9話
「すれ違い」
それぞれの想いの先にあるのは……。
ではまたお会いいたしましょう。
2005.11.7 水原 琳
おまけの話 2
琳「今回は次回予告までやってしまった……。でも楽しいからいっか♪」
*琳さんの楽観的な性格が現れております。
琳「お仕事も終わったことですし、帰りますか」
機嫌よく帰ろうとする梨の背後に一つの影が。
琳「んっ?……り、六合……」
振替ってみれば、背後に黒いオーラを漂わせた六合。
六合「琳……」
琳「は、はい!!何でございましょう?(私、何かした?/汗)」
六合「前回、俺の出番が多くなると言っていたな」
琳「へっ?あぁ、確かに言ったね。それがどうかした?」
六合「そう言っていたわりに俺の出番が少なかったような気がするのだが?」
琳「えっ?え〜と……そ、そうだった?(汗)」
六合「あぁ……」
琳「……でも大丈夫。今度はもう少し出番があるから……。(たぶん)」
六合「……そうか。(またたぶん?)」
その答えに満足したのか、ふらりと姿を消してしまった六合。
琳「……ふぅ、危なかった」
と、その時。背後にもう一つ影が。
勾陳「琳……」
琳「あっ、勾陳!!」
勾陳「大丈夫だったか?」
琳「怖かったです。ものすごく怖かったです!!」
勾陳「どうやら私が知らせくるのが一足遅かったようだな」
琳「そ、そんな〜〜。(泣)」
勾陳「まあ、無事で何よりだ」
琳「勾陳〜〜vv」
*琳さん、勾陳の微笑にやられております。
勾陳「さて、私たちもそろそろ帰るか」
琳「はいvv」
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。
続きは気長にお待ちいただけると嬉しいです。