ドリーム小説






優しい瞳  5 団欒


初めて二人が出会ったとき、互いに惹かれあっていることが一目でわかった――。
いつもの無表情をあの方の前ではいとも簡単に崩す――。
そんな二人をいつも微笑ましく思っていた――。










   5 団欒 〜小さな出会いと緩やかな時










安倍邸にある昌浩の部屋から笑い声が絶えず聞こえてくる――。

部屋にいたのは、この部屋の主である昌浩と安倍家に半久的に滞在中の某家の姫・彰子、安倍晴明配下の十二神将の一人・六合、それに彰子に会うためにわざわざ訪ねてきた式部卿家の一の姫・姫だった。

ちなみに姫は六合の恋人でもある。

彰子はふとあることを思い出し、に尋ねた。

様は市に行ったことはありますか?」
「市……にですか?」


きょとん、とした顔では聞き返した。

「はい、ありますか?」
「いいえ、ありませんわ。彰子様は行ったことがあるのですか?」

は少し考え込むと答え、逆に彰子に尋ねた。

「えぇ。露樹様におつかいを頼まれていったことがありました」
「まあ、そうでしたの。市は賑やかなところだと女房たちから聞いたことがありますわ。
一度行ってみたいとは思っているのですけれど、父がなかなか許してくださいませんの」

は軽く驚き、苦笑いを浮かべながら事情を説明した。
彰子はハッ、とした。病弱な貴族の姫として有名なが市へ行くなどということは絶対にありえない。
そのことに気が付いた彰子は何と言ったらいいのか困っていた。
顔を俯かせてしまった彰子の様子から落ち込んでしまっていることを感じ取ったは、微笑しながら優しく声をかけた。

「彰子様、そんなに気になさらないでくださいな」
「で、でも、私何も考えないで様にひどいことを……」

今にも泣きそうな顔でを見つめてくる。
その隣で昌浩がはらはらしながら二人の様子を見守っている。

「私は気にしていませんから……。
彰子様が市に行ったときのことをお話してくださいませんか?」
「で、でも……」

それでも何かを言おうとする彰子の声は六合の声によって遮られた。

の言うとおりだ。気にする必要はない――」

今までの隣に腰を下ろし、無言で様子を見ていた六合が助け舟を出した。
六合の言葉にが頷く。

「はいっ」

彰子は笑顔で頷いた。その隣で昌浩が安堵のため息を吐いた。
彰子は気を取り直して話し出した。

「露樹様に料理に使う塩を買ってきてほしいと言われて市に行くことになったのです。
顔を被衣で隠して市へ向かいました。
一条戻り橋の下にいる車の妖に手を振ってから歩き出したのですが、途中で六合が後ろからついてきていることに気づいて驚きました」
「まあ、六合が?」

六合が彰子についていったことを初めて聞いたは思わず驚いた。

「はい。
一人で外へ出ることは嬉しかったのですが、少し不安だったので六合がいてくれて安心しました」
「そうでしたの」

彰子の話にが相槌を打つ。

「市に向かう途中いろいろな人々とすれ違いました。
市に着いてからまず露樹様に頼まれていた塩を買いました。
それから露樹様が欲しいものがあったら買ってきてもいいと言われたので、昌浩に何か買っていこうと思いました。
海産物に野菜、小間物に布、そういったものが地面に敷かれた莚に乗せられて、路沿いに並べてあるものを順に見て回りました」
「いろいろなものが売っているのですね」

が感心した声を上げた。

「結局、手のひら一杯分の干し杏と干し桃を買ったのです。
そういえば、その時ふと思ったことが……」
「思った……こと?」

彰子の発言には首を傾げた。
二人の会話を聞いていた六合は、いつもの無表情を浮かべたままで固まった。
なぜだか嫌な予感がしてならない。
そんな六合の心中を知ってか知らず二人の姫の会話は進んでいく。

「はい。
物の怪のもっくんがもっくんなんだから、六合もりっくんのほうが可愛いと思って……。
そのほうが親しみやすいと思いませんか?」
「りっくん……ですか?――確かにそのほうが可愛いですわね。親しみやすいですし」

彰子の言い分に素直に同意を示すの隣で六合が、心なしが沈んでいるように見えた。
それだけに知られたくなかったのだろう。
自分の思っていたことが見事に当たってしまった六合は絶句するしかなかった。
その様子に気づいた昌浩が六合に同情の視線を送っていた。
二人の姫君の会話は止まることなく続いていた。









そんな四人の様子を見ていた人(?)たちがいた。
こそこそと昌浩たちから隠れて部屋を覗いていたのは、十二神将の太陰、玄武、天一と朱雀のカップルであった。
その後ろでもっくんが一人で庭を眺めていた。

「こんな所で何をしているんだ?」
「勾……」

勾陳が姿を現し、もっくんの隣に腰を下ろした。

「昌浩の傍にいなくてもいいのか?」
「オレは馬に蹴られるのはごめんだ」

ため息を吐きながらもっくんは答えた。

「そうか……。ところで後ろの四人はいったい何をやっているんだ?」

勾陳は四人の後ろ姿を見ながら尋ねた。
あぁ、と呆れたような声が返ってくる。

の姿が見たいんだと」
「天一と朱雀はわかるが、太陰と玄武は会ったことがあるだろう?」
「オレにはわからん。本人に聞いてくれ」

そう言うともっくんはそっぽを向いてしまった。
勾陳は軽く嘆息した。









楽しく会話していたは何か視線を感じた。視線を感じたほうに顔を向ければ、が知っている人物たちがこちらを覗いていた。
は軽く驚きながらその人物たちの名を呼んだ。

「そこにいるのは太陰と玄武ではありませんか?」

の言葉に他の三人の目線がそちらに向く。
名を呼ばれた二人はおずおずと部屋に入ってきた。その後ろにはが知らない人物も二人いたが、気配から十二神将なのだろうと思った。

「太陰、玄武、こんにちは」

穏やかな笑みを浮かべてが話しかけた。
怒られるのではないかと心配していた太陰だったが、の態度に安心したのか元気よく話し出した。

姫、こんにちは!!ちゃんと私のこと覚えててくれた?」
「姫、元気そうで何よりだ」

太陰に続いて玄武も話し出す。

「はい、ちゃんと覚えていますよ。玄武もありがとうございます」

太陰たちが現れたことによりほのぼのとした雰囲気が賑やかになる。

「ところで太陰、玄武。後ろにいるお二人は……」

が尋ねると同時に後ろの二人がの傍まできて挨拶をした。

「お初に御目文字仕ります。私は十二神将が一人、天一」
「同じく十二神将の一人、朱雀だ」
「天一と朱雀ですね。私はと申します。よろしくお願いいたしますね」

も同じように挨拶をした。
二人の向こうによく見知っている物の怪と神将の姿を見つけ、声をかけた。

「まあ、もっくんと勾陳ではありませんか?」
「姫、久しぶりだな」
「はい、お久しぶりでございます。お元気そうで何よりですわ」

に呼ばれた二人(?)は部屋に足を踏み入れた。
勾陳はやや微笑を浮かべつつ、の近くに腰を下ろした。その少し後ろでもっくんが居たたまれない顔で立っていた。

「もっくん、そんな所にいたんだ……」

いつの間にか姿を消していた物の怪ことは気になってはいたのだが、深く考える程のことでもないか、と昌浩はすぐに忘れてしまっていたのだ。
もっくんはぽつり、と呟いた声が聞こえたのか、昌浩の傍まで来ると素早くわき腹に蹴りを一発お見舞いした。

もっくんの蹴りは見事に決まった。

蹴られた昌浩はぐえぇ、とカエルが潰されたような声を上げた。

「昌浩、大丈夫?」

昌浩の声にいち早く気づいた彰子が心配した表情で昌浩の顔を覗き込んだ。
尋ねられた昌浩はまだ蹴られたわき腹が痛むのか、わき腹を手で押さえつつ声には出さずに大丈夫、だと片手をパタパタ、と振った。
一部始終を見ていた全員はそれぞれの反応を示した。
太陰は腹を抱えて大笑いし、玄武は苦笑いを浮かべている。
天一は手で口元を隠して微笑し、隣にいる朱雀も笑っている。
勾陳は勾陳でもっくんの見事な蹴りに感心したような表情を浮かべ、目の前にいるもっくんはどうだ、思い知ったか、と言わんばかりに仁王立ちしている。
は突然の出来事に何がなんだかわからないまま、目を丸くしている。その傍で六合が控えめに笑っていた。
は更に目を丸くした。
普段穏やかな笑みを浮かべていることはよくあるが、六合が笑っているところなど見たことがなかったのだ。
蹴られた痛みに耐えていた昌浩は周りから聞こえてくる笑い声にふつふつ、と怒りが込み上げてきた。
肩をふるふる、と震わしている昌浩を不審に思った彰子が声をかけた。

「昌浩?大丈夫……」

しかし彰子の声は昌浩の声によってかき消されてしまった。




「笑うな――――!!」




昌浩のあまりの剣幕に一同は口を閉じた。
昌浩はぜいぜい、と肩で息をしながらもっくんを睨みつけた。

「もっくん、いきなり何するんだ!!」
「何だとはなんだ、晴明の孫!!」
「孫言うな!!どうして俺がもっくんに蹴られなきゃいけないんだよ!!」
「お前が悪い!!」
「俺が何したって言うんだよ!!」
「お前、オレのことすっかり、あっさり、すっぱり、まったく忘れていただろう?」
「うっ、それは……」
「ほら見ろ、やっぱりお前が悪い!!」
「でも、だからって何も蹴ることはないだろう!!」

いつもの如く始まってしまった二人の言い合いに、一同はただ、ただ見守ることしかできなかった。
そんな中は一人だけまったく別のことを思い、ぽつり、と呟いた。

「何だか、お二人とも楽しそうですわね」

(いや、それは違うだろう……)

の言葉を聞き取った全員が即座に心の中で突っ込んだ。
その間も二人の言い争いは続いている。一向に終わる気配のない二人を無視して会話は続いていく。
いい加減、言い争うことに疲れてきた二人はそこで気が付いた。自分達を無視して何やら楽しそうに会話をしている。

「なあ、昌浩。もしかしてオレら、忘れられてる?」
「……というより、無視されてるんじゃ……」

ぽつり、と呟く二人の間に沈黙が訪れる。

いつもならば勾陳か六合辺りが二人を止めるのだが、今回に限り止めることもせずに会話に参加している。

二人よりものほうが優先なのだろう。

誰も止めてくれないのならば、このまま言い合っていてもしかたがない。もっくんは昌浩に提案した。

「……昌浩、やめるか?」
「……そうだね」

自分たちの扱われ方に昌浩はため息を吐きながら、もっくんの提案に同意した。
急に静かになったことに気づいた勾陳が二人に声をかけた。

「もう終わったのか?」
「……終わりにしたんだよ」

勾陳の質問にもっくんは投げ槍に答えた。その隣で昌浩も苦笑いを浮かべている。

「そういや〜、前にも同じようにオレ様の華麗な蹴りをお見舞いした奴がいたな〜」

もっくんは昌浩に蹴りをお見舞いしたことであることを思い出した。
もっくんの発言に疑問を持ったは尋ねた。

「同じこと?」
「あぁ、陰陽寮に出仕している陰陽師の中にそれは嫌味たらしい奴がいてな。
そいつの名を藤原敏次って言うんだが、あまりにも昌浩をばかにした言い方をするもんだからオレはやってやったね」

得意げに話をするもっくんに興味津々に耳を傾ける。




事の次第はこうだ。




いつものように陰陽寮での仕事に勤しんでいた昌浩は、後ろから敏次たち陰陽生に呼び止められた。
呼び止められた昌浩は敏次たち陰陽生からの嫌味攻撃と自慢話に曖昧に相槌を打ちながら、話が早く終わることを願いただ耐えていた。

一方傍で聞いていたもっくんは、あまりの言い方に怒りがふつふつとこみ上げていた。
ようやく話が終わり、くるりと踵を返して渡殿を歩き出した昌浩だったが、隣にいるはずの物の怪の姿が見えないことに気づき肩越しに振り返った。
振り返った昌浩が見たものは、何やら楽しそうに話しながら遠ざかっていく敏次に向かい、物の怪が走りながら音もなく跳躍し、くわっと目を剥いたところだった。




そして――。




「じゃかあしいわ、この能無しえせ陰陽師っ!!」

怒り声を上げながら、もっくんは敏次の背中に上段回し蹴りを叩き込んだ。
あまりに綺麗に決まったので、昌浩は思わず賞賛の声をぽつり、と呟いた。

「……お見事」

もっくんに上段回し蹴りを叩き込まれた敏次は吹っ飛んだ。周りの陰陽生たちが突然のことに悲鳴を上げていた。
そんな中、シュタ、と着地したもっくんはそのまま昌浩の許へ戻り、肩に飛び乗った。
まだ怒りが治まらないもっくんに昌浩は苦笑いを浮かべてその場を後にした。




「……ということだ。
いや〜他の奴らにも見せてやりたかったね〜。オレ様の華麗なる足技を……」
「確かに。見事に決まってたよね」

その時のことを思い出していた昌浩は素直に頷いた。

「まあ、そうでしたの。私も是非とも拝見したかったですわ。
また機会がありましたら、是非拝見させてくださいね」
「おう」

至極残念といった顔で答えたかと思うと、は穏やかな笑みを浮かべてもっくんに頼んだ。
こうして賑やかな雰囲気の中、会話は進んでいった――。









西の空が茜色に染まり始めた頃――。

庭が茜色に染まり始めたことに気づいたは声を上げた。

「まあ、もうこんな時間ですわね。長い時間お邪魔してしまいましたわ。
私はそろそろ失礼いたしますわね」

突然帰ると言い出したにそれぞれ反応し、もう少しだけここにいてほしいと話し出した。

「えっ!?もうお帰りになられるのですか?もう少しお話したかったのに……」
「そうよ。もう少しいたっていいでしょう?」
「我もそう思う……」
「私ももう少しお話したかったのですが……」
「天……」
「後少しぐらいなら大丈夫だろう?」
、そうしろ。少しぐらいなら問題ないだろうし……」
「そうですよ。皆もこう言っていることなんですし、もう少しぐらい……」

彰子はしゅん、と顔を俯かせて言った。
太陰は身をのり出して言い、玄武も頷き太陰に同意した。
天一は少し悲しげな表情で言葉を呟き、朱雀は隣の天一の肩を抱き寄せて同じように沈んでいた。
勾陳はいつもの淡々とした口調に悲しげな色を含んだ声で尋ね、もっくんも勾陳と同じようなことを言う。
昌浩もなんとか留まってほしいと思い、説得を試みていた。

「そう言ってくださるのはとても嬉しいのですが……。
あまり遅くなりますと父が心配いたしますので……」

皆の気持ちはとても嬉しいのだが、あまり父に心配をかけたくないは少し困ったような笑みを浮かべながら言った。
の言葉にシン、と静まり返る。
その様子にが穏やかな笑みを浮かべてぽつり、と呟いた。

「それに、また遊びに伺いますから。
すぐに……というわけにはいきませんけれど、必ず伺いますから。
文も差し上げますし……そうですわ、よろしければ我が家にも遊びに来てください」
「……本当ですか?」
「えぇ、本当に」

の言葉を聞き、彰子は顔を明るくさせた。他の神将たちも笑顔を見せ、喜んだ。

「帰る前に晴明様にご挨拶したいのですが……」
「俺が案内しよう……」

六合が真っ先にすっ、と立ち上がった。それに続いても立ち上がった。

「それでは彰子様、またお会いしたしましょうね。近いうちに文を届けさせますわ」
「はい、様もお気をつけて……」
姫、また遊びに行くからね!!」

太陰が勢いよく身を乗り出して言い、隣の玄武も頷く。

「また、お会いできることを楽しみにしております」
「気をつけてな」

天一と朱雀も続いてに声をかける。

「また来るのはいいが、無理はするなよ」

柱に凭れかけて腕を組んでいた勾陳がわずかに微笑した。
もっくんは楽しそうにを見つめながら言った。

「またオレ様の華麗な技を見せてやるからな!!」
様、今日はありがとうございました」
「こちらこそ、今日は本当に楽しかったですわ。ありがとうございました」

感謝の言葉を述べる昌浩には笑顔で答えた。
皆に見送られる中、六合の後について晴明の部屋へと向かった。









晴明は御簾の向こうからよく知っている神気を感じ取った。と同時に御簾の向こうからまだ若い女性の声が聞こえてきた。

「晴明様、いらっしゃいますか?」
「おりますぞ。さあ、中にお入りください」
「失礼いたします」

一言声をかけてからは部屋の中に足を踏み入れた。その後ろに六合の姿も見える。
晴明の前に腰を下ろし、向かい合う形となる。

「して、どうなされましたかな?」
「帰る前に、一言晴明様にお礼を申し上げたくて参りました」

目元を和ませている晴明には笑顔を返した。

「お礼を言われるほどのことではありませんぞ」
「しかしそれでは私の気持ちが治まりません。
先日は助けていただき、ありがとうございました。
それに今回の訪問についても――」
「お気になされますな。皆も喜んでいるようですしな」

感謝の気持ちを述べるに晴明は優しい声で答えた。
その時、晴明の背後に二人の神将が姿を現した。は二人の神将に目線を向けた。

「あぁ、様は二人に会ったことはありませんでしたな。二人とも挨拶せんか」
「あっ、はい」

の目線に気づいた晴明が、に挨拶するように二人を促した。

「十二神将が一人、青龍……」
「同じく十二神将が一人、天后と申します」
「青龍と天后ですね。よろしくお願いいたします」

青龍は眉間にしわを寄せながら言い、天后は控えめながら丁寧に挨拶をした。

も穏やかな笑みを浮かべたまま挨拶を返した。

、そろそろ……」
「……そうね」

の背後に立っていた六合が声をかけた。
完全に日が沈む前には邸に着いたほうがいいと判断した六合はを促した。六合が言わんとしていることを察したは頷いた。

「晴明様、本日はこれにて失礼いたしますわ。またお訪ねしてもよろしいですか?」
「かまいませんぞ。いつでもいらしてください」
「ありがとうございます」
「しかし、無理はいけませんぞ」
「わかっております――」

は苦笑いを浮かべた。
ペコリ、と一礼してから立ち上がり、部屋を後にした。
二人の姿を見送っていた晴明の背後から青龍がぼそっと呟いた声が聞こえた。

「変わった姫だ……」
「でも、お優しい姫君でしたね」

隣にいた天后が優しい笑みを浮かべて答えた。
二人の神将の発言に晴明は目元を和ませ軽く笑った。

「確かに青龍の言ったとおり変わった方じゃが、天后の言うとおりお優しい方でもあるのぅ。
だからこそあの六合も心許しておるんじゃろ――」









牛車に揺られて式部卿宮家に帰り着いたは、人払いを済ませた自室に六合といた。

「今日は本当に楽しかったですわ」
「……そうか、それはよかったな」

今までの出来事を振り返り、が嬉しそうに声を上げた。
嬉しそうに笑顔を見せるを穏やかな笑みを浮かべて見つめていた。が、の一言に六合はピキッ、と音をたてて固まってしまった。

「ねぇ彩W。
彰子様がおっしゃっていたように時々でいいですから、りっくん……って呼んではだめでしょうか?」

彰子から聞いた話を思い出し、六合の顔を覗き込むように尋ねた。
六合はいつもの無表情をわずかに引きつらせてを見つめていた。

「だめ?」

首を傾げて聞いてくるを愛らしく思うのだが、それとこれとはまったく別問題だ。
たとえの頼みでもこれだけは承知することができない。
六合は言葉にするよりもその瞳で肯定の意思を示した。

は目を見開くと、片手を頬に当てて一つため息を吐いた。

「しかたがありませんわね。りっくん……可愛いと思うのですけど……残念ですわ」
……」

六合は呆れと怒りが混ざったようなため息を吐く。

「彩W、これからは二人でもっといろいろな場所に出かけましょうね。
私、もっといろいろなものを見てみたいですわ」
「連れて行ってやる……。が望むのであれば、どんなところでも俺が連れて行く――」

静かだが確かにはっきりとの耳に届いた。
きょとん、と目を丸くして六合を見つめていたが、六合の言葉を理解したは顔を輝かせた。
は嬉しそうに笑みを浮かべながら六合に抱きついた。
に抱きつかれた六合は突然のことに多少驚いたが、をしっかりと抱き止めた。
六合の胸に顔を埋めていたは顔を上げて微笑んだ。

「絶対に連れていってくださいね」
「あぁ、絶対に――」

再度確認するに六合は普段は見せない優しい笑みを浮かべて囁いた。
二人は互いに見つめ合い、穏やかな笑みを浮かべてそっ、と口付けをした。









その後六合の宣言通り、と二人で出かける日が多くなったとか――。





















前作より長くなりました「訪問」編の続き、「団欒」編をお届けしました。いかがでしたか?
今回私が書いた作品の中で一番登場人物が多い作品となりました。
そのせいでちょっと困ったことがありました。

あまりの多さに均等に出番を作ってあげられませんでした。
それと今回初めて登場した天一と天后の口調が、私はイマイチ理解できておりません。
朱雀もそうです。もし違っていましたらすみません、許してください。(焦)精進いたします。
この話のタイトルが「団欒」ということにちなんで、六合をいじめてみたり、もっくんに昌浩を蹴らせてみたり、笑える要素をたっぷり入れてみました。
私自身、書いていてとても楽しかったですvv
(特にもっくんに昌浩を蹴らせるのは……。さすがもっくんvv)
続きは気長にお待ちくださいねvv

この作品はあるサイト様に投稿させていただいたものを修正・加筆したものです。

それでは、また次の作品で――。

2004.10.10   水原 琳