ドリーム小説
闇夜に降りし月姫 プロローグ
ウォール山脈――。
名が示す通り、人と魔物の世界を分ける壁である。
その境に存在するのがウォール村。
北東にウォール山脈、西側には魔物の町『ゴモラ』あると囁かれている大森林が広がっている。
この村を守るために派遣されたのは、カトレット総合教会本部から正式に任命された祓魔師・ギブ=テーゼ=ウェストウッド。黒ずくめの服を身につけ、胸元には十字架―ロザリオ―がある。その姿は正しく神父である。
しかし胸元に輝くロザリオは通常のものとは違い、下先が槍のように鋭くなっている。それこそが彼を祓魔師だと証明している。
歳は二十代前半。長身で髪は黒く、少々クセがある。そのどこか野生的で切れ長の瞳は青灰色。それを隠すように丸眼鏡をかけている。
聖職者は本来ならば清貧、貞潔、神に対する従順でなければならない。だが、彼はそれには当てはまらない。
煙草は吸う、女性を口説く、最悪……もというまくいけば夜のお相手までする。まったく神父らしくない神父である。
プロローグ 〜月より降りし者、それは――〜
辺りは暗くシン、と静まり返っている。
扉を開ける音がやけに大きく、不気味に響く。村の見回りから帰ってきた少女―ツキシロ―はその音にわずかに眉を顰めた。
そのまま靴音を響かせて食堂へと向かった。
食堂に足を踏み入れたツキシロは、机の上に窓から注ぐ光に反射する何かを見つけた。いつでも対応できるように警戒しながら、一歩一歩近づく。
椅子に手をかけ、身を乗り出した。
(鏡……?)
丁度顔全体が写る大きさの丸型の鏡がそこにあった。
窓から注ぐ月の光を浴びる位置に置いてある。光の眩しさに目を細めて、上体を戻して一歩下がった。その動きに合わせて肩から人房髪がさらり、とすべり落ちた。
鏡に反射する光に照らされて、ツキシロの容貌が明らかになる。
腰まで伸びた漆黒の髪、そのまま宝石を詰め込んだかのような紅の瞳。病的なまでに白い肌。
どう考えても普通の人間ではない。
しかしそれもそのはずである。ツキシロは狼男―ワー・ウルフ―と吸血鬼―ヴァンパイア―との『混ざりもの』の魔物なのだ。
それもただの『混ざりもの』の魔物ではない。誓いのもとギブ神父の下僕となった『聖なる魔物』なのだ。
その証拠にツキシロの喉には逆十字の刻印がある。
吸い込まれるように鏡を見つめていたツキシロは誰かが食堂に入ってきたことに気づいていなかった。
「帰っていたのか……」
背後から響いてくる低い声に肩を揺らした。ゆっくりと振り返れば暗闇の中、よく見知った人物が壁に凭れかけてこちらを見つめていた。
「ギブ神父……」
昼間かけている丸眼鏡をポケットに入れた状態で一歩踏み出した。音を立ててツキシロに近づく。
ギブが傍にきたことを気配で感じ取ったツキシロは唐突に口を開いた。
「ギブ神父、これどうしたの?」
「あぁ?それか……」
突然のことに何を言っているのか、要領を得ない。が、ツキシロの目線の先にあるものを見て、やっと納得がいった。
わずかに思案した後、頭を掻きながら答えた。
「あ〜〜、レオンの奴に無理やり渡されたんだよ」
「レオン神父に?何で?」
その何を聞いて素直に疑問が浮かぶ。
レオン神父は一応同じ師のもとで修行をした、ギブの親友の名だ。本人に言わせれば、悪友の間違いだ、だそうだ。
「レオンの奴が言うには、満月の夜にその鏡に月を映せば、月の力を借りて『月の姫』がこの地に舞い降りてくるんだとよ」
「……『月の姫』……」
『月の姫』と聞いて思案しているツキシロの横で、内ポケットから煙草を取り出して火をつけた。紫煙を吐き出し、そのにおいに非難の色を向けるツキシロを無視して続けた。
「そもそも月には昔から魔力があるって言うしな」
「ふ〜ん……。だから試しているってわけね?」
「そういうことだ」
どこか呆れを含んだような声で尋ねた。それに対して返ってきたのはどこか面白がっているようなギブの声であった。
その証拠に口元に笑みを浮かべている。
椅子に背を軽く預け、もう一本煙草を取り出して火をつけようとした。が、軽く袖を引かれてしまった。
「えっ?ちょ、ちょっと!!ギブ神父!!」
「っ、おい何を……」
そう言いかけた言葉は飛び込んできた光景に続かなかった。ツキシロの指差す先にある鏡。それがほのかに光を増して輝き始めている。
その事態にニヤリ、と笑みを浮かべた。
「ツキシロ、もしかしたら『月の姫』と会えるかもしれないぞ?」
「えっ?」
驚いて隣を見たツキシロは、嫌な予感がした。目の前に立つギブが何かを企むような笑みを浮かべているのだ。
そうした笑みを浮かべているときは、必ずと言っていいほど何かが起きる。
そのとき――。
鏡が急に強い光を発した。あまりの眩しさに二人は目を逸らした。
光はすぐに収まり、何事もなかったかのように辺りに静寂が訪れた……はずだった。
「何?何だったの?」
「俺が知るか!!」
わけがわからず騒ぐツキシロに一喝して、今の目の前で起きた出来事を考える。
あの光は本当に何だったのか。仮に『月の姫』を召喚できたとしても、その召喚された者はどこに消えた?
召喚できたとしてもそれが神であるとは限らない。神の名を騙った悪魔である可能性もある。
そう思案していたとき、庭のほうから何かが落ちた音が聞こえてきた。
落ちてきたものの姿を捉えていたツキシロは、一目散に庭へと駆け出していった。
「あっ!!」
「おい!!ツキシロ!!あのバカが……」
軽く舌打ちして指に挟んでいた煙草をその場に捨て、自分の下僕の後を追いかけていった。
先に庭に辿り着いていたツキシロは、目の前に倒れている少女を見つめていた。
自分と同じように腰辺りまで伸びた漆黒の髪。今の自分ほどではないが白い肌。瞳は閉じられていて色はわからないが、見た目だけでも美少女と言えるだろう。
(魔物?違う、人間よね?)
確認しようと一歩踏み出そうとしたとき、背後から制止の声がかかった。その声にピタリ、と足を止め、振り返った。
「待て、ツキシロ!!」
「ギブ神父!!」
急いで向かっていたギブの目に飛び込んできたのは、落ちてきたものに近づこうとするツキシロの姿であった。
いくら今夜は満月で多少力は増しているといっても、正体のわからないものに不用意に近づくのは危険なことに変わりはない。
ツキシロの隣まで来たギブは、目の前に倒れている者の姿を見た。
(女?それもまだ幼いな、17か18と言ったところか)
注意深く観察してみるが、魔気は感じられないことから考えるとどうやら人間らしい。だが、疑問は残る。
(いったい、どこから来たんだ?まさか、本当に『月の姫』が召喚できたわけじゃねぇだろうな?)
片膝をつき、少女を覗き込んで考え込んでいたギブに痺れを切らして尋ねた。
「その子、人間なんでしょ?」
「あぁ、魔気は感じられないから間違いなくな」
「じゃあ、その子が『月の姫』?」
「……かどうかはわからねぇな。
どっちしても本人に尋ねてみなければ、わからないことだらけだ」
「そっか……」
「んっ……」
そう結論づけたとき、他の声が聞こえて二人は少女を見つめた。
かすかな呻き声を上げて、少女の目がゆっくりと開かれた。そのまま視線を彷徨わせてギブの前で止まる。
しばし見つめた後、小さい声だがはっきりと声が聞こえた。
「貴方……誰?」
「俺はギブ=テーゼ=ウェストウッド。お嬢さん、そういう貴女の名前は?」
極上の笑みを浮かべて囁いた。傍で聞いていたツキシロの頬が淡く色づく。
音には出さずに口の中で名をくり返してから少女は途切れ途切れに答えた。
「……私は…………」
答えた途端、少女――は再び意識を失った。
「おい!!気を失ったか……」
一つため息を吐くと、の背中と膝に手を差し入れて抱き上げた。横抱きの状態で司祭館の中へと歩き出した。
その様子をぼ〜〜っと見ていたツキシロは、ハッ、と我に返った。慌てて先を歩く主人の後を追って行った。
漆黒の空に煌煌と輝く満月――。
その光に照らされて、鏡が不気味に輝いていた――。
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つ、ついに書き上げてしまいました。
マイナーもいいところ。スカーレット・クロス、記念すべき第一作目です。
スカーレット・クロス、好きなのですけどね〜〜。なかなか夢って探してもないのですよね。
もう我慢ならなくなって結局自分で書いてます。(笑)
でもやっぱり他の方が書いた夢も見たい!!ということで誰か書いてください〜。(切実に)
さて、マイナーなスカーレット・クロス。
待っていてくださった皆様、大変お待たせいたしました。楽しんでいただけましたでしょうか?
初書きですので、とても不安なところです。(びくびく)
ただ申し訳なかったのはヒロインさん、そんなにしゃべっていません。
ごめんなさいっ!!当初の予定では一言もなかったので、それを考えるとちょっと進歩です。
それにしても世界観とか宗教とか地理とか……大変でした。
原作片手に書いていたのですが、いまいち把握できておりません。
キャラの性格とか口調も定まっておらず……。もし違っていたらごめんなさい。
うぅ〜、精進いたします。
最後に。
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。
続きは気長にお待ちくださると嬉しいです。
次回お会いできることを祈って――。
2005.11.6 水原 琳
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