ドリーム小説






紫宮の双姫 一章〜2 お茶会〜


緩やかなに流れる時――。

それに合わせるように吹き込んでくる風が頬を撫でる。

その心地よさに自然と口角が上がる。

何より傍に愛しい人がいてくれる……。



それが……こんなにも嬉しいことだとは――。









   一章  〜2 お茶会〜  午後のひと時









回廊を誰かが走る音が響いている。とても急いでいるのか、音と音との間隔が短い。
その足音もある部屋の傍までくるとピタリ、と止んだ。
呼吸を整えたは一息ついてから妹であるの室へ入ろうと一歩踏み出した。が、周囲をよく見ていなかったために誰かとぶつかってしまった。

「きゃっ!!」
「……とっ!!すまない、大丈夫かい?」
「……っ。大丈夫です」

反動でふらつくの腕を掴んで支えてくれた。
自分の腕を掴んでいる手はごつごつしていて、どう見ても男の人の手だ。まだぼんやりする頭でどうでもよいことを考える。
が、ここではある疑問が浮かんだ。

此処は王の妻たる者が住まう後宮である。主である王以外の男性は立ち入ることは禁じられているはずだ。
ただその妻たる妃の親族の男性はまた別のようだが。
しかしここは妹、同じ妃であるの室の前だ。訪ねてくる男性は決まってくる。

「……兄様?」
「……?」

この時初めて、お互いの顔を視界に入れた。
何となく予想がついていたは驚いたものの、どこかでやはりそうなのかと納得していた。
一方兄である楸瑛は、ぶつかった相手がに仕えている女官だと思っていた。だが、実際目の前にいるのは最愛の妹。
目を丸くして驚いた。と同時に慌てた。

「……って!!!?あぁ〜、私としたことが何としたことか。
可愛い妹のお前にぶつかってしまうとは」
「兄様?」
「怪我は?どこか痛むところはあるかい?やはり念のために医師に見せたほうが……」

瞬時に顔色を変えた楸瑛は怪我をしていないかとの腕を見たり、痛むところはないかと尋ねたり、と落ち着きがない。
挙句には医師に見せたほうがいいかと本気で言っている。

「兄様、本当に大丈夫ですから」
「そうかい?」

慣れているとは言え、さすがにここまで心配されると何と言ってよいのか困る。心配してくれることは嬉しいのだが、度が過ぎるのも考えものだ。

「ところで兄様。今日はどうしてこちらに?」
「いや、丁度暇ができたからね。
ちょっと様子を見に来たんだ。そういうこそどうしたんだい?」
「今日はとお茶をする日ですから」

控えめに笑みを浮かべながら、手に持っていたかごの中を見せた。かごの中あるものを見て納得した楸瑛は、普段は見せることのない笑みを浮かべた。
もしこの場に女官がいたら即座に頬を染めていたことだろう。最愛の妹に向ける笑顔はまた特別のようだ。







「はい、どうぞ」
「……あぁ、ありがとう」

二人分のお茶を淹れたは、絳攸と向かい合う形で椅子に腰を下ろした。
その動作に少々見惚れていた絳攸はわずかに遅れて答えた。どうやら少し緊張しているようだ。
湯飲みからは良い香りが漂ってくる。その香りに誘われて自然と湯飲みに手が伸びる。
口にすれば香りとともに、ほどよい甘さが口内に広がる。そこでやっとほっ、と一息つくことができた。

「いかがですか?絳攸様」
「……おいしい」
「本当ですか?」
「あぁ……」
「それはよかったですわ」

自分の淹れたお茶がまずかったらどうしようかと思っていた。が、絳攸は確かにおいしいとぽつりと呟いたのだ。
再度尋ねても返ってくるのは肯定の言葉。
それを聞いて安堵したような笑みを浮かべながら、自らもお茶を口にした。
その姿を見た絳攸は柔らかい笑みを浮かべて、を見つめていた。

「絳攸様、今日はどうしてこちらに?いつもでしたら兄様も一緒ですのに」
「んっ?あぁ、丁度仕事がひと段落したところだったからな。
楸瑛は上司に呼ばれて席を外していたから、俺一人できたんだが……」
「あら、そうでしたの」
「やはり楸瑛と一緒に来たほうがよかったか?」
「いえ、絳攸様だけでも来てくださって嬉しいですわ」

少し意地悪く尋ねれば、慌てて否定の言葉が返ってきた。その答えに思わず頬が緩む。
それを悟られまいと手で口元を隠すのだが、やはり嬉しいものは嬉しい。

「絳攸様?」
「いや、何でもない」
「そうですか?それならよろしいのですけど……」

少々様子のおかしい絳攸を不思議に思い尋ねた。
しかし返ってきたのは、何でもない、という答え。だが、どう見てもおかしい。
釈然としないが、本人が何でもない、と言っている以上は大丈夫なのだろう。

これ以上追求されなかったことに、絳攸はそっ、とため息を吐いた。
もし尋ねられていたら、返答に窮しただろう。が何も聞かないでくれて心底よかったと思った。
話題を変えるために絳攸は口を開いた。

「ここでの生活にはもう慣れたか?」
「はい、お邸にいるときあまり変わりませんので。ただ……」
「ただ?」
「出掛けることができなくなってしまったのは悲しいですわ」
「そうか……」

寂しげに微笑む姿に、絳攸は自然と声が低くなるのを感じた。
重い空気が漂う中、がぽつり、と呟いた。

「でも……」
「でも?」

姉様や兄様も訪ねてきてくださいますから。
何より絳攸様が訪ねてきてくださるのです。寂しくなどありません」

はっきりと断言されて、絳攸は絶句した。と同時に頬を染めた。
愛しい相手からはっきりと言われて嬉しくない男がどこにいるだろうか。いや、むしろそんな者はいない。

「絳攸様?気分が悪くなったのですか?」

あまりに突然のことに言葉を失っている絳攸に更なる追い討ちが襲った。
会話が途切れてしまったことに、気分が悪くなってしまったのかしら、と心配になったは腰を上げた。そのまま絳攸の傍にくると顔を覗き込んだ。

「大丈夫ですか?」

思わぬところで間近での顔を見た絳攸は、顔を赤く染めたまま固まった。
自分を心配してくれることはとても嬉しいことだが、この状況はさすがにつらいものがある。その反面もう少しこのままでもいいかと思う気持ちもある。


どちらにしても傍にいてくれるのは嬉しいものだ。





だが、絳攸はまだ知らなかった。

近くにとてつもない恐怖が潜んでいることを――。



















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前回に引き続き双子の妹・と絳攸がメインとなっております。
もう何なのでしょうか?このじれったさは!!(書いたのはお前だ)
これで恋人同士ではないというから不思議です。
いい雰囲気なのですけどね〜。進展は……あまり期待できず。
……頑張れ、絳攸。

双子の姉・は今回ほとんど出番なしです。
あぁ〜ごめんなさい。次回はちゃんと重要な役どころですので。(汗)

最後に。
妹バカな楸瑛を期待されていた方、申し訳ありません。
まだまだ物足りないと思われますが、どうぞご安心ください。
勘のよい方ならばお気づきだと思いますが、次回は本領発揮ですので。(苦笑)

続きは気長にお待ちいただけると嬉しいです。
ではここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。

2005.11.5   水原 琳

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