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紫宮の双姫  一章〜1 退屈な日々〜


霄太師のとんでもない発言から数日後――。

藍家の双子の姫君たちが、表向きは女官の后候補として後宮入りを果たした。
表向きは女官ということもあり、限られた人数の侍女たちと共に目立たぬように、と後宮に入った。
しかしいくら目立たぬようにと細心の注意を払っていても、あの藍家の姫君たちが候補とはいえ、后としてやってきたのだ。秘密にできるわけがない。

『藍家の姫君たちが後宮入りとした』という噂は瞬く間に朝廷の隅々にまで知れ渡ることとなった――。









   一章  〜1 退屈な日々〜  後宮での生活は?









藍家の双子の姫君、が後宮に入ってから早一ヶ月――。

それぞれ室を与えられ、日々を過ごしている。だが、その暮らしぶりは後宮というだけあって、何かしらの制限はあるもののこれといって変わりはない。
生活する場所が変わっただけだ。


本来れっきとした后として後宮に入ったのであれば、その伴侶たる王の相手をしなければならない。
しかし藍家の姫君たちはあくまでも表向きは女官。さらにまだ候補である。そのためそういった心配はまったくない。
そもそもその王本人とも後宮に入った当日、対面して以来一度も会っていないのだ。それどころか室に訪ねてくることもない。
姫君たちにしてみれば、それはそれでとくに気にすることもない。むしろそのほうが姫君たちにとっては都合がよいといえる。


実際のところは異母妹たちが可愛くてしかたがない異母兄・楸瑛と、妹姫であるが気になる絳攸の二人が、主上の後宮行きを阻止しているのだ。
阻止をしている、と言っても具体的にはいつもとは変わらない。ただ少しばかり執務に忙殺されている日々が続いているだけだ。

しかし劉輝してみれば、果たしてこのままでいいのだろうかと考え込んでしまう。せめて話だけでもできれば、また違ってくるのだが……。
そうは思っていても、さすがにあの二人を相手にこっそりと後宮に行く勇気はない。


そうして日々は過ぎていた――。









風が窓から吹き込んできたことに気づいたは、二胡を気が向くままに奏でていた腕をピタリ、と止めた。顔を窓のほうへ向ければ風が頬を撫でる。
心地よい風に自然と笑みを浮かべていた。
風の心地よさに身をゆだねていたが、あることに気づいて慌てて立ち上がった。その拍子に今まで腰を下ろしていた椅子が大きな音を立てて倒れた。
しかしそんなことにはかまっていられない、とばかり急いで二胡を片付けると、軽く身支度を整えて、あらかじめ用意してあったお菓子を持って室を出て行った。
室を出るさい、女官たちに一言『出かけてきますね?』とだけ伝えていった。女官たちもほぼ日課となっていることだけに一言主の背中に向けて『いってらっしゃいませ』と返すのみであった。


が急いで向かった先は、同じ后候補として後宮に入っていた双子の妹・のもとであった。
後宮に入ってからというもの、特にこれといってすることもないため、こうしてお互いの室を行き来することが多いのだ。
今日はの室を訪れる日であった。にも拘わらず、二胡を弾く事に集中していたため、時間のことをすっかり忘れてしまっていた。
気づいたときには約束の時間を過ぎていた。







一方、の室では――。
もうすぐ双子の姉・が室を訪れる時間になるため、お茶の用意をしていた。今日はがお茶を、がお菓子を用意する日であった。
先日異母兄である龍蓮が贈ってきた甘露茶を用意した。
甘露茶と共に文も送られてきたのだが、その内容がやはりというのか……。普通の人ならば理解をするにはかなりの時間がかかるものであった。
でもそこは兄妹という間柄、何となく異母兄の言いたいことは理解できるものだ。
文の内容を要点かつ、わかりやすく言うとこうだ。


『私が留守にしている間にが後宮に入ってしまうなど……私は悲しい。
可愛い妹たちを後宮に入れるなど、あの愚兄其の四はいったい何をしていたのだ?』



と、二人が後宮に入ったことを嘆くことから始まり、その怒りを兄・楸瑛にぶつける……向けることが書いてあった。

最後に一言。


『愛するに茶州で銘茶と謳われる甘露茶を贈ろう。
私が戻った暁には二人が入れてくれた甘露茶を飲みたいものだ』



といった内容が書かれていた。

これはあくまでも完結に説明したもので、実際にもっとすごい内容らしい。
文の内容からの二人に宛てたものだが、宛名には『藍貴妃へ』としか書かれていなかった。どちらに届けたらよいのか迷った女官が、とりあえずのもとに届けさせたそうだ。


一通り準備を終えたは、が来るまで先ほど目を通していた書物を再び読み始めた。
室の中は静かなもので……が時折カサッ、とページをめくる音と、風が吹き込んでくる音が聞こえるのみだ。

そろそろ時間だろう、と書物から顔を上げたが、まだが来る気配はない。とりあえず書物をパタン、と閉じてもとの位置に片付けた。

が来るまでの間、吹き込んでいる心地よい風に身をまかせることにした。


(姉様……遅いですね……)


目を閉じてそんなことを考えながら、風に髪を遊ばせていた。
しばらくそうしていると、ふと近くに人の気配を感じた。
ゆっくりと目を開いてそちらに顔を向ければ、そこには自分が好きな……愛する人の姿があった。

「絳攸……様?」

室の入り口で立ち尽くしている絳攸の姿があった。
を訪ねてきたものの……声をかけても返事がなかったため、どうしたらよいのか思案に暮れていた。
いつ絳攸がきたのか、まったく気づかなかったは慌てて腰を上げた。そのまま小走りで絳攸のもとへ向かっていった。
の動きに合わせて髪飾りがシャラン、とかすかな音を立てて揺れる。


考え込んでいた絳攸は、かすかに聞こえてきた髪飾りが揺れるときに出す独特の音に思考を浮上させた。
音のするほうに首を動かした。そのとき視界の隅に鮮やかな桃色の衣を捉えた。
わずかに息を弾ませながら自分の目の前まできていたに驚いてぽつり、と呟いた。

……」
「はい?」

呟いた声が聞こえたは答えた。が、すぐに答えが返ってこないことに首を傾げた。
気のせいだったのか、とも思ったが、念のために尋ねてみた。

「あの、絳攸様?」
「……あっ、いや……」

遠慮がちに尋ねる声に絳攸はハッ、と気づき、片手を口に当てて視線を泳がせた。気のせいだろうか、わずかに頬が赤い。
やはりどこか様子がおかしい。何かを誤魔化すような言葉にはさらに首を傾げた。

しかし、絳攸が言葉を濁すのも当たり前である。
いつもはたちを訪ねる場合、その兄である楸瑛と一緒なのだ。妹たちが可愛くてしかたがない楸瑛が常に目を光らせているため、ずっとを見ているわけにはいかない。
いくら親友である絳攸でも大切な妹たちを渡したくないようなのだ。
今日はたまたま、楸瑛が急用で来られなくなったことと、いつもなら迷う道を迷わずに辿り着けたこと、この二つが見事に重なったことが原因だ。

おかげで良いのか悪いのかわからないが、愛する人の美しく装った姿を間近で見ることができた。

「絳攸様?」
「その……よく似合っている」
「……あ、ありがとうございます」

初めはいったい何のことを言っているのか理解できないであった。が、自分の姿を見て言っているのだと絳攸の様子からすぐにわかった。
とても嬉しいと同時に少し恥ずかしく思い、頬に熱が集まるのを感じた。


二人の間に何とも言えない空気が流れた――。


「あの、よろしければ中へ」
「いや、だが……」
「今日は姉様とお茶をする日ですし、良いお茶を兄が贈ってくださいましたし……。
それに姉様が来るまでどうしようか迷っていたところでしたの」
「わかった。俺でよければ……」
「ありがとうございます」

嬉しそうに笑みを浮かべるの姿に頬が緩む。それを決して悟られまい、と平静を装う絳攸であったが、内心は嬉しくてしかたがなかった。
またこの場に楸瑛がいなくて本当によかったと思った。いたら即座に嫌味を言われたであろう。


しかし今は。





この愛しい姫との時間を大切にしよう――。





そう、強く心に決めた。

と並んで話に華を咲かせながら室の奥へと歩いて行った。



















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大変お待たせいたしました!!
「紫宮の双姫−しきゅうのそうき−」の一章をお届けです。
一章と言ってもまだ続きますが。(苦笑)
前作序章からかなり間が空いてしまいました。本当に申し訳ないです。
うぅ〜、彩雲国は難しいよ〜。しかもダブルヒロインって……。
誰だよ、ダブルヒロインにしたのは。(それはお前だ)
ぼちぼち頑張っていきます。


さて今回は双子の妹、がほぼメインでした。
なかなか進展しない二人。最後は微妙に甘い?状態でしたが……。
しばらくの間はこのような状態が続きます。後は絳攸の頑張り次第で変わってきます。
絳攸、是非とも頑張って!!
もう一人のヒロイン双子の姉、は……まだ相手すら出てきていない状況。(汗)
早く出して上げたいのですが、話の進行上もう少し先になりそうです。
と言いつつ意外と早く出てくる可能性もあります。(笑)

妹バカの楸瑛の登場を期待されていた方、申し訳ありません。
次回は必ず出ますので、楽しみお待ちいただけると嬉しいです。
それではまた次回お会いいたしましょう。

2005.11.2   水原 琳

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