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紫宮の双姫  序章


彩雲国――。


それは遥か昔、一人の若者が色――藍・紅・碧・黄・白・黒・茶・紫――の名を持つ八仙の力を借りて、築き上げた国――。

そして国を築き上げた若者―蒼玄―は初代国王となり、国の繁栄に努めた。










   序章  始まりの日――










彩雲国は藍州・紅州・碧州・黄州・白州・黒州・茶州・紫州と、八つの州に分かれている。彩八仙と呼ばれた八仙の名からそう分けられているのだ。
それぞれの州は豪族が治めてきた。が、六百年ほど前に国を治めていた王が、各州を治めていた豪族たちを無理やり改姓させてしまったのだ。
藍州を治めていた豪族は藍氏に、紅州を治めていた豪族は紅氏に……というようにすべて治めていた州と同じ名にしてしまったのだ。と同時に民に同じ姓もつことを王が禁じたので、これらの色の姓をもつということは大貴族を示すことになる。
国の中心である首府――朝廷がおかれていた紫州は王が兼任して治めていたため、紫氏は王族を表す姓となっていた。









彩雲国八州のうちの一つ、藍州を治める名門中の名門――藍家。
その藍家の令息である藍楸瑛は、親友である李絳攸とともに自室の椅子に向かい合って腰を下ろしていた。先ほどから二人は深刻な顔で悩んでいた。

「絳攸、私はどうしたらいいと思う?」
「俺に言われても……」

二人はずっとこの会話を繰り返している。何をそんなに悩んでいるかというと、ある人物の思いつきが原因であった。










その日――。
彩雲国国王である紫劉輝の執務室に、左羽林軍将軍を務めている藍楸瑛と吏部侍郎を務める李絳攸は呼び出されていた。
部屋には二人の他に、この部屋の主である劉輝となぜか朝廷三師―王に教えを導く師としての官であり、王に次ぐ権威を持つ―の一人、霄太師もいた。

「急に呼び出してすまぬな」
「いえ。それでいったい何の御用でしょうか?
まだ仕事が残っているので、できれば手短にお願いしたいのですが?」

劉輝の言葉に、絳攸は不機嫌さを押さえた声で答えた。本当はそのまま表に出したいところだが、霄太師もいるのでそれはできない。

「うむ。実は霄太師が二人に話があるそうなのだ」
「霄太師が?」
「私達に?」

二人は驚き、顔を見合わせてから霄太師のほうに目線を向けた。見つめられている霄太師はニヤニヤ、と何かを企んでいるような笑みを浮かべていた。

「霄太師、話というのは……」
「藍将軍、そなたには確か妹君が二人おったはずじゃな?」
「えぇ、確かに妹が二人いますが……それが何か?」

絳攸の言葉を見事に無視して霄太師は楸瑛に話しかけた。なぜそんなことを聞くのかと疑問に思っていた二人だったが、次の霄太師の言葉に己の耳を疑った。

「妹君たちをこやつの后候補として後宮に入れてくれんか?」
「「はっ?」」

二人は同時に声を上げた。霄太師の言う『こやつ』とはもちろん国王・劉輝のことである。
言われた意味を理解できずに二人は呆然としている。霄太師はそれを気にも止めずに話を進めた。

「あくまでも候補としてじゃ、そんなに心配せんでもよい。
表向きは後宮の女官として入ってくれればよいしのぅ」

霄太師の中ではこれは既に決定事項らしい。
これは楽しみだ、と笑い声を上げている霄太師の前で、二人は未だ固まったまま言葉を失っていた。
その様子を見ていた劉輝は自分に係わることながら、二人にそっ、と同情の眼差しを送っていた。

未だに固まったままでいる楸瑛に代わって絳攸が尋ねた。

「霄太師、何故藍家の姫君たちを后候補に?」
「あぁ、それはな。
こやつもそろそろ后を迎えてもよい歳じゃというのに、后には秀麗殿しか迎えんとほざきよってな。
藍家にも姫君がいることだしの。一度ぐらい会ってみてもよかろう?」
「はぁ」

霄太師の説明に絳攸は気の抜けた返事しかできなかった。最も本当のところは、美人姉妹として名高い藍家の姫君たちを自分の目で見てみたい、という個人的なことなんかだったりする。

「藍家の姫君たちは姉妹揃っての美人だと噂もあるしぅ。今から待ちきれんわい」

老人特有の笑い声を上げながら、霄太師は部屋を出て行った。





パタン、と扉が閉まった音で我に返った楸瑛は目にも止まらぬ速さで劉輝に詰め寄った。

「どういうことですか?主上!!」
「お、落ち着いてくれ。楸瑛!!」

楸瑛のあまりの剣幕に劉輝はたじたじである。そこへさらに絳攸が圧力をかける。

「どうして断らなかったんだ?仮にも国王だろう?」
「うっ。よ、余だって必要ないと言ったのだぞ?
しかしあのクソじじ……霄太師が無理やり……」
「……バカ王が……」

劉輝の言葉に絳攸は呆れたような、それでいて怒りを少し含んだ声で言った。ついでにそのまま冷めた目で劉輝を見下ろしている。
絳攸に睨みつけられた劉輝は犬のように小さくなって、ビクビク、と脅えていた。
一方その隣では、楸瑛が思いつめたような顔で考え込んでいた。

楸瑛は妹たちをそれはそれは目に入れても痛くないほどに溺愛している。他の兄たちはもちろんのこと、弟(妹姫たちにとっては兄)である藍龍蓮も兄たち同様に妹たちを溺愛しているのだ。
その溺愛する妹たちを、今目の前にいるバカ王の后候補として後宮に入れろ、と言われたのだ。落ち着いていられるわけがない。
兄である楸瑛から見ても、もし妹でなかったら恋人にしたい、とまで言わせるほどの美しさの持ち主たちなのだ。もちろん親友である絳攸も、この姫君たちと藍家にお邪魔したときに何度か会っているのだ。
女嫌いである絳攸でさえのこの姫君たち初めて会ったときには、その美しさにはしばし呆然としたものだった。

「主上……。たとえ主上といえども妹たちに手を出したらどうなるか……。
おわかりですよね?もし手を出したときには……」

それはもう満面の笑みを浮かべて、楸瑛は背後に黒いオーラを出しつつ脅しをかけた。絳攸に睨まれて脅えていた劉輝は、今までに見たこともないような楸瑛の黒い笑みにピシッ、と固まってしまった。

「それではまだ仕事が残っていますので、失礼します」

そう言うと固まったままの劉輝をそのままにして部屋を出て行った。チラリ、と劉輝を一瞥してから絳攸も楸瑛の後を追いかけて部屋を後にした。

部屋に一人残された劉輝は、官吏が新たに書類を運んでくるまでそのままの状態だったそうだ。

その後、職場に戻った楸瑛はテキパキ、と仕事を片付けていき、急いで帰宅したのだった。その知らせを受けた絳攸もいつもより早々に仕事を切り上げて、藍家へと急いで向かった。










そして今に至る――。

「絳攸……。どうしたら、妹たちが後宮に入らなくて済むと思う?」
「楸瑛、それは……」
「それはいくら何でも無理……だろう。
主上の意思でないにしろ、あの霄太師の言葉には逆らえない。
主上に釘を刺しておいたが……」

絳攸は半ば諦めたような表情で呟いた楸瑛に、わずかに眉を顰めた。

「貴様もバカだな。あのバカ王の后――と言っても、あくまでも候補だろう?
あれだけ脅し……忠告をしておいたんだ。
それがわからないほど王もバカではないだろう?」
「それはそうだが……」
「ここで考えていてもしかたがないだろう。
それよりも姫たちに知らせたほうがいいんじゃないか?」
「それもそうだな……」
楸瑛の妹バカっぷりに多少呆れつつ、絳攸は姫君たちに知らせるように促した。それに同意した楸瑛は、ガタッ、と音をさせて立ち上がった。





名門中の名門である藍家には美しい姫君が二人いる。
二人の姫君は藍家の宝玉または蝶などと呼ばれて目に入れても痛くないほどに、それは大事に大事に育てられてきた。
姫君たちはとてもよく似ている。まるで鏡を覗き込んでいるかのような錯覚に陥ることもある。
しかしそれもそのはずである。姫君たちは姉妹とは言え双子の姉妹なのだ。

姉姫の名を――。

妹姫の名を――。

と言う。
双子と言っても姿かたちが似ているだけで、その性格はまったく異なる。

姉姫であるは、見た目はしっかりしているように見えて、実はどこか人よりワンテンポずれている。要は天然ボケなのだ。
反対に妹姫であるは、見た目は一見おっとりしているように見えるが、実はものすごく芯の強い娘なのだ。悪く言えば強情あるいは頑固である。

姉であるの部屋で二人は何やら楽しそうに話していた。そこへ深刻そうな顔で兄の楸瑛とその親友である絳攸が部屋に入ってきた。

「兄様、どうかなさったのですか?」
「あら?絳攸様もご一緒でしたのね」

姫たちが尋ねても返事はなかった。絳攸も口を閉ざしたままだ。二人の姫はただならない雰囲気に顔を見合わせて首を傾げた。
覚悟を決めた楸瑛は一つため息を吐くと話し出した。

「実は……」









「……ということだ」




「はい?」
「まぁ……」




兄である楸瑛の説明に二人の姫は同時にまったく異なった声を上げた。

二人の姫はあまりの事の大きさに己の耳を疑った。何かとんでもないことを聞いたような気がする。

あまりの事に信じられないは恐る恐る聞き返した。

「に、兄様。今何て……」
「二人が王の后として後宮に入ることが決まった――と」
「それは本当なのですか?」

黙って事の成り行きを見守っていた絳攸にが尋ねた。絳攸は首を縦に一回振った。
それを見たは、本当のなのだ、と確信した。もそれを確信したのか黙り込んでしまった。
黙り込んでしまった妹たちを心配した楸瑛は慌てた。目に入れても痛くないほど溺愛している妹たちが気を落としているのだ。

「后と言ってもあくまでも候補としてだ。
表向きは後宮の女官として仕えるようにとのことだから、そんなに心配しなくても大丈夫」
「そう……なのですか?」
「たとえ後宮に入ったとしても、あの王が手を出してくることはまずない」
「本当なのですか?」
「あぁ、それは信じて大丈夫だ」

絳攸の言葉を聞き、二人の姫は安堵の色を浮かべた。その様子に二人はわずかに笑みを浮かべた。

「それに、もし何かあったときはすぐに連絡してくれ。何とかするから」
「もちろん、俺も協力する」
「「ありがとうございます。兄様、絳攸様」」

二人の姫は声を揃えてお礼を述べた。
伝えることを伝えた二人はの部屋を後にした。そろそろ自分の部屋に戻りますね、とも楸瑛たちと一緒に出て行ってしまった。
部屋に一人取り残されたは改めて考えた。表向きは女官としてだが、王の后候補として後宮に入る……。

(本当に国王様の后になる……なんてわけじゃないものね。
それにしても心配なのはのほうだわ。絳攸様のこと、どうするつもりなのかしら?)









一方の部屋を出た3人はの部屋へと向かって歩いていた。が、途中で楸瑛が、仕事があるから、と言って部屋へ戻ってしまったため、今はと絳攸の二人で長い回廊を歩いている。

「絳攸様。絳攸様は私たちの後宮入りをどうお考えですの?」
「どう……とは?」

絳攸が聞き返した。しばらく考え込んだだったが、諦めたようにため息を吐いた。
そうやって歩いているうちにの部屋の前に着いた。

「……いえ、何でもありませんわ。
絳攸様、送ってくださってありがとうございました。おやすみなさいませ」

絳攸のほうに振り返ってペコリ、と頭を下げてお礼を述べると、悲しげに笑みを浮かべたまま部屋に入っていった。

「おやすみ……」

目を見開いたまま絳攸は呆然と呟いた。

絳攸はに、どう考えているのか、と聞かれたとき、何と答えたらよいものかと焦った。本音を言えばには、仮とはいえ后候補としても後宮に入って欲しくない。だが、王の次に権力を持つ霄太師に逆らう術を今の絳攸にはないのだ。

女嫌いである自分が見つけた心許せる相手だと言うのに……。

やりきれない思いを抱えつつ、絳攸は自宅へと帰っていった。









その数日後――。
支度を整えた藍家の双子の姫君たちは、表向きは女官の后候補として後宮に入ることとなった――。



















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ついに書いてしまいました、彩雲国夢「紫宮の双姫−しきゅうのそうき−」の序章をお届けです。

実はこの作品、私にとってはのダブルヒロインのお話です。
(お相手は作品一覧のところでもわかるとおりです)
今までにない無謀(?)なことに挑戦でしたので、四苦八苦しながら書いていました。
さらにキャラの性格は掴みきれていないし、口調もイマイチ理解できていないし……。

……とそんな中で書きあがった作品なのです。
皆様、キャラの性格&口調はこれで合っていますか?(聞くなっ!!)
誰か教えてください。もし違っていたらごめんなさい!!む、難しいのです。(言い訳)

こんな状態なので作品の執筆ペースはかなり遅いです。ごめんなさい。(謝)
続きは気長に待っていてください。感想を聞かせてくださると嬉しいです。

そ、それでは――。

2004.11.24   水原 琳

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